(1)ウイルス性食中毒 −食品衛生法の改正に伴うこれからの課題−
1-4 食品(カキ)からのSRSV遺伝子検出方法及び実態

斎藤博之 (秋田県衛生科学研究所)


  SRSVによる下痢症の流行形態は様々あるが、生カキの摂食が原因と推定されるケースは以前より知られており、予防対策の面からカキ中腸腺内のSRSVを効率よく検査する方法の確立が急務となっている。ここでは、検出にRT-PCR法を使用することを前提に、検体処理法(遺伝子抽出法)について考察を加える。糞便検体の処理においては、いわゆる"原法"としてのCTAB法があり、また、最近は様々な抽出キットが市販されている。しかし、カキの処理にあたっては糞便に対するプロトコルが必ずしも当てはまらないことを認識しておく必要がある。

   カキ検体の特徴を列記すると次のようになる。
   1. 微量のRNA(SRSV)に対して圧倒的に大量のDNA(カキ本体)
   2. 様々な多糖類による酵素阻害 (RTase、Taq polymerase)
   3. 物理的な破砕方法が必要

   通常行われているホモジナイザーやストマッカーによる処理では、大量のカキ由来DNAが混入し、増幅後の判定が困難になるだけではなく検出感度の低下も避けられない。同時に多糖類の混入による偽陰性も考えられる。一方、検査室内の備品や消耗品にも限りがあるため大量の検体処理には向かない(PCR検査では、洗浄後の再使用は不安)。当所ではこうした問題点を解決するために凍結融解による検体処理法を考案した。すなわち、摘出したカキ中腸腺をエッペンドルフチューブに入れて-80℃で凍結し、その後60℃程度の温湯を添加して急激な温度差で組織を破砕する(細胞破砕ではない)。遠心上清に対して糞便と同じように処理を行えばRNAを抽出できる。なお、エタノール沈殿の際に白濁が生じた場合は多糖類の混入が考えられるのでグラスミルク法などの追加処理が必要となる。また、逆転写反応直前にDNaseI処理を行うことでエキストラバンドを一掃できることは既に発表(Hiroyuki Saito et al., Microbiol.Immunol., Vol.42, No.6, 439-446, 1998)したが、カキに対しても有効である。

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