(1)ウイルス性食中毒 −食品衛生法の改正に伴うこれからの課題−
1-2 地方衛生研究所実務担当者から現状について

川本尋義(岐阜県生物産業技術研究所、部長研究員兼岐阜県保健環境研究所、厚生科学全国ウイルス性食中毒研究班長)


 自然感染によるウイルス胃腸炎と下痢症はウイルス性胃腸炎としてまとめ、一方ウイルスが付着混入若しくは蓄積された汚染食品を摂食したことで起きた直接健康被害をウイルス性食中毒と定義する。このウイルス性食中毒は、筆者らが平成5〜7年に厚生科学や生保厚生事業団助成により非細菌性食中毒様集団発生の全国実態を初めて調査し、その成果をもとに食品衛生法にもウイルスが認知されるべく法改正を要望した結果、食品衛生調査会にウイルス食中毒対策部会が生まれ、平成9年5月に一部法改正され歴史ある食品衛生法にウイルスが初めて登場することとになった。 厚生省が改正法施行によりウイルス性食中毒原因のほぼ9割を占めた小型球形ウイルス(SRSV)とそれ以外のウイルスも食中毒と関連有る限り原因究明の検査を義務づけたことから、食中毒ウイル検査は全国の地方衛生研究所(90機関)で平成9年度から本格的に実施されるところとなった。法改正前の地衛研では、食中毒ウイルス検査は殆どが自主的研究対応が中心であった。筆者の地衛研も平成5年度からウイルス性を疑う食中毒事例についてはウエスタンブロット法やRT-PCRにより独自検査として行政対応しつつ、患者・食品などの検査経常経費を要求獲得し現在に至っている。平成9年度からはウイルス性食中毒検査対応が全国で実施されるに至り、検査対応基準や経費、検査法の標準(GLP)化が必要と思う。食中毒ウイルスの遺伝子診断に際してはマンパワーや迅速性、正確性が当然求められるが、地衛研の検査対応能力以上の検査件数の受入れは地衛研の処理能力と機能からして困難かとも思われる。将来、食品の安全試験や医療機関の受診患者については民間検査機関による検査実施と報告のシステム化も解決策と考えられ、筆者は地衛研が無制限に検査対象を拡大して行く傾向にあることに些か懸念を抱いている。胃腸炎ウイルス等の環境生態やヒトへの汚染現況は、ウイルス生態学として未だ明らかにされていないので十分な疫学調査も必要であり、検査法改良や開発、ウイルス制御、予防対策、食品食材管理、水産養殖技術改良などについて対処し研究開発する必要があると思っている。

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