(1) ウイルス性食中毒 −食品衛生法の改正に伴うこれからの課題−
1-1 厚生行政当局から全体的な流れについて
冬季に発生する原因不明の食中毒の多くについては食品由来のウイルスによるものである疑いがもたれているが、食品中からのウイルス検出の技術的困難やウイルスの食中毒病因物質としての位置付けが不明確であったことなどから、従来食品由来のウイルスによる健康被害の発生状況は把握困難であった。厚生省では平成6年度からの食品媒介ウイルス性胃腸炎集団発生全国実態調査研究班により、全国の地方衛生研究所の協力の下調査を実施した結果、過去5年間の908事例の非細菌性胃腸炎のうち、360事例について糞便中のウイルスが同定(うち330事例では小型球形ウイルス(SRSV)陽性)された。また、従来の標準法である電顕では検出困難な少量のウイルスについても、PCR法適用により検出感度向上等が果たされ、食品中からの検出事例も報告されるようになった。
これらの状況の変化を踏まえ、厚生省では食品を媒介とするウイルス性の健康被害対策について本格的に検討を開始し、平成9年3月の食品衛生調査会による意見具申を踏まえ、平成9年5月30日の食品衛生法施行規則の改正により、ウイルスを食中毒の病因物質として明確に位置付けるなどの方策をとった。これにより、改正日以降に発生したSRSVによる食中毒については、都道府県等において患者発生や原因究明等に関する調査を行い、厚生省に報告する制度が確立した。 前述の研究班の報告によれば、SRSVの他食品媒介の可能性があるウイルス種としてアストロウイルスやC群ロタウイルスがあげられており、また、国内外の発生状況などからみてA型肝炎ウイルスについても注意を要する状況である。厚生省としても今後これらのウイルスの食品中からの検出法の確立普及等により、食中毒原因究明の一層の推進を図る考えである。