脳内の腫瘍にはさまざまなものがありますが、代表的な疾患としてグリオーマ(神経膠腫)が挙げられます。グリオーマの治療の中心は、手術による脳腫瘍摘出と術後に行われる化学及び放射線療法です。特に悪性グリオーマにおける手術治療は、全摘出を目指して最大限摘出することが求められます。その一方でグリオーマは浸潤性格を有する腫瘍であり、後遺症が少なくなるよう安全に摘出しなければなりません。言語や運動機能に関わる部位の腫瘍については、機能的MRIやトラクトグラフィーなどを行い術前に脳機能診断を行い、覚醒下手術及びナビゲーションを導入することで脳の重要な神経機能を温存した手術が可能となっています。
また近年の研究により脳腫瘍においても腫瘍幹細胞が存在すると報告されるようになりました。悪性脳腫瘍の起源と考えられる腫瘍幹細胞を患者さんの脳腫瘍組織から培養して、遺伝子異常や脳浸潤のメカニズムの解明、新規治療の開発について研究しています。
日本ではてんかん発作で悩んでいる患者さんが約100万人といわれていますが、適切な薬物治療により、70~80%の方は発作が消失します。しかし残りの20~30%の患者さんは、薬物治療に抵抗性であり、このような難治性てんかんに対して外科治療が考慮されます。術前に脳波、MRI、PETなど詳細な検討を行い、てんかん焦点を診断し、焦点切除術を行うことで良い治療効果を得ています。
道内は広く、てんかん専門医分布には偏りがあります。てんかん精査や外科治療には術前、術中評価、外科治療等に人手や時間が必要で、当科は5人てんかん専門医の資格がある脳神経外科専門医が属します。定期的に地域機関病院に出張し、専門外来等で診察、診断し、必要なら大学病院で入院精査、治療に繋げます。定期的な脳波診断、投薬、術後フォロー、医療福祉的相談、書類作成等にも関わります。出張対応では、時間的制約、天候や災害時交通機関の影響等があるため、緊急時相談窓口として、遠隔診療支援TV会議システムの有用性が期待されます。震災時の東北大学てんかん学―気仙沼診療連携の実例に倣って、現在、釧路市立病院との間で、不定期に症例検討を行っています。
地域連携に必要な相補合理的な運用を目指しています。
脳の深いところに発生する腫瘍の総称で、多くは脳の外側に発生します。以前は到達困難であり、腫瘍摘出に伴い麻痺などの症状(合併症)が出やすいものでした。しかし、近年は腫瘍とその周辺構造物との関係(微小解剖)が詳細に検討され、かつ頭蓋底外科と呼ばれる頭蓋骨を削って病変へ到達する手術手技が発展してきたため、合併症がほとんどなく、腫瘍を摘出することができるようになりました。当院ではこの頭蓋底手術を得意としていますが、必ずしも手術のみで治せる病気ばかりではありませんので、これらに対しては放射線照射なども検討し、個々の患者様にとってベストな治療法を考えています。
脳血管障害には脳梗塞、脳出血、脳動脈瘤、脳動静脈奇形、内頸動脈狭窄・閉塞、硬膜動静脈瘻、もやもや病などの病気があります。そのなかで最も代表的な3つの病気の外科治療を紹介します。
まず、1つは脳動脈瘤についてです。この動脈瘤は、破裂するとくも膜下出血になります。動脈瘤そのものを処置する方法には、クリッピング術とコイル塞栓術があります。クリッピング術は、手術により開頭して、脳動脈瘤のできた血管を確認し、脳動脈瘤の頚部を小さな金属製のクリップで閉鎖して、血液が脳動脈瘤に流れ込むことを防ぐ手術です。
脳動静脈奇形の治療は、ガンマナイフを用いた定位的放射線治療も増えていますが、尚手術が主流です。現在では、複雑な脳動静脈奇形に対しては、血管内手術による塞栓術を併用することで、有効性と安全性を向上することができるようになってきています。しかし、大きな脳内出血のために意識障害が出現している場合には、救命を優先し緊急開頭術が必要となることがあります。
もやもや病は、外科的治療で脳にバイパスを作ることを行います。 バイパス手術の方法には、直接吻合術と間接吻合術が区別されます。 直接吻合術とは、頭皮の動脈を頭の中の脳の血管に直接つなぎ合わせる方法です。具体的には、耳の前を走行している浅側頭動脈(STA)を中大脳動脈(MCA)につなぎます。一方、間接吻合術とは、頭皮の動脈その物や筋肉などの血流が豊富な組織を脳の表面にかぶせることにより、後の血管新生を期待するものです。
脳血管内治療とは鼠徑部や上腕部より超極細のカテーテルを頭蓋内血管や頸動脈まで挿入し、レントゲン透視下に血管内部から治療する新しい分野です。具体的には、脳動脈瘤をプラチナコイルで密に充填し、破裂予防(破裂するとクモ膜下出血になります)したり、脳血管や頸動脈の動脈硬化性狭窄をバルーンやステントで拡張させたり、腫瘍などの栄養血管を塞栓したりいたします。従来の開頭法による手術では治療困難であった疾患が、この新しい方法によって治療可能となってきました。
利点
開頭手術と比べると患者への負担が少なく、全身状態の悪い患者さんや高齢者も治療対象となります。複数の脳動脈瘤も一度の手技で治療可能です。治療時間も開頭手術と比較して短時間で可能なことが多く、入院期間の短縮、早期社会復帰が可能となっております。
欠点
動脈瘤では瘤の形状により完全閉塞が得られないことがあり、再治療が必要になる場合があったり、定期的な術後血管撮影が必要になります。動脈瘤の術中破裂など合併症が一旦発生した場合には、直視下で行う開頭手術と比べて症状が重篤になりうる危険性があります。動脈硬化の程度が強く、血管の屈曲や蛇行が著明な場合(特に高齢者)には、病変部位にカテーテルを留置できないことがあります。長時間にわたる手技では被爆による脱毛などの合併症も問題となる場合があります。
当科では、椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症などはもちろんのこと、脊髄腫瘍、脊髄動静脈奇形、脊髄硬膜動静脈瘻、脊髄空洞症、癒着性くも膜炎などの非常に稀な病気まで治療しています。当科で行っている脊髄脊髄疾患の診療について簡単にご紹介します。
1) 頸椎または腰椎の手術
頚椎の病気に対する手術方法には、前方から治療する場合と後方から治療する場合があります。当科は前方から治療する方法を得意としています。特に椎間板ヘルニアに対しては、金属を使用して固定する通常の手術方法(前方固定術)の他に、椎体に約8mmx5mm程度の小さい穴を作り、そこからヘルニアを摘出する方法も行っています。後方から治療する椎弓形成術では、人工物を使用しないで脊柱管を拡大する方法で行っています。
また、腰椎の手術でも顕微鏡を使用して手術を行うので、1箇所の病変の手術では約3cmの傷で十分可能です。
2) 脳脊髄液減少症 の治療
脳脊髄液減少症は、近年非常に注目されている疾患です。当科は、脳脊髄液減少症の診断・治療法の確立に関する研究班に所属しており、最新の知識を基に診療を行っています。
3) その他
関連科との連携をとりながら、患者様に最良な治療を総合的に行っています。従って、心臓が悪い方や腎臓が悪くて透析を受けている方など、リスクが高い患者様でも治療が可能なケースもあります。
札幌医科大学高度救命救急センターでは専従の脳神経外科救急医(救急専門医、脳神経外科専門医、脳卒中学会専門医、脳神経血管内治療専門医)が24時間常駐し、重症頭部外傷治療を中心に急性期加療を行っております。2009年7月から2011年6月までの2年間の症例については日本脳神経外傷学会の重症頭部外傷データバンクのプロジェクト2009(全国23施設)に登録しております。登録内容の一部をご紹介します。当施設搬入となった15歳以上の重症頭部外傷(搬入時意識レベルGCS3-8もしくは緊急開頭手術症例)は32症例で、男性25例、女性7例でした。交通事故の割合が47%を占め、半数が65歳以上となっており、高齢者の歩行者・自転車事故、転倒転落事故の割合が増えているのが特徴的です。高齢者の最重症例は生命転帰不良であり、高次脳機能障害を呈する症例も少なからず存在しており、退院後も転院先ならびに脳外科外来にて長期的なフォローを行っております。
また当高度救命センターでは、重症くも膜下出血を中心に急性期重症脳卒中の診療も積極的に行っております。診療実績(2011年12月から2011年12月)については、脳梗塞16例、脳出血11例、くも膜下出血45例となっております。
胎児から小児期にみられる脳と脊髄の病気について診断・外科治療を行っています.成人とは病気の種類や治療法が異なりますので,専門スタッフが中心に対応します.
小児診療では発育・発達・自然矯正の視点を持つことが大切です.したがって必要最小の外科治療と,長期にわたる見守りやサポートが必要です.そこで各科の小児担当医,看護師,地域の保健師と協力し合う「包括的医療」が特に欠かせず,北海道立子ども総合医療・療育センター(http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/hkr/)との連携で最善の治療に心がけています.
― お子さんについて気になることがあればご相談ください ―
水頭症および硬膜下液貯留
頭の中で髄液が過剰になったり,血液が溜まる病気です.頭が大きい,おでこが出ている,発達が進まないなどの症状ではじまります.
二分脊椎(脊髄髄膜瘤,脊髄脂肪腫,先天性皮膚洞,等)
脊髄と脊椎の奇形で,下肢運動感覚障害や排尿障害を起こします.生まれたときすぐにわかるタイプから外見上わからないものまであります.腰やお尻の皮膚に凹み,こぶ,異常発毛,血管腫(皮膚の赤み)があれば疑わなければなりません.
頭蓋骨縫合早期癒合症
頭蓋骨が正しく成長しない病気で,脳が発育できないなど様々な障害を呈します.頭の形が通常と異なっている,発達が進まない,眼球が出っ張っている,視力低下,けいれんなどがみられます.
脳腫瘍
元気がなく不機嫌,食欲低下,嘔吐などから始まることが多く,一見胃腸炎や風邪に似ていますので注意が必要です.なかなか改善しない場合や,発達の退行(一旦できるようになったことができなくなる)があれば検査が必要です.
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