基盤研究A 東南アジア・オセアニアにおける現生人類の拡散移住史
日本学術振興会科学研究費による基盤研究(A) 2011~2015年度
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研究目的
東南アジアは,ユーラシア大陸東縁において最も早く新人が適応放散を遂げた地であるばかりでなく、オーストラリアをはじめとするオセアニア地域への回廊でもある。東南アジア・オセアニアの人類史をめぐっては、「二層構造モデル」と「地域進化モデル」なる二大仮説をめぐって大論争となっています。前者は、新石器時代にオーストロアジア諸語やオーストロネシア諸語を話す農耕集団が、中国大陸もしくは台湾から東南アジア・オセアニア全域に拡散し、最初に出アフリカした系統の先住集団と大規模に混血または置換したとする重層的移住構造による集団形成モデルです。後者のモデルは、こうした北方からの大規模集団移住と混血を否定し、地域連続性を主張しています。本研究では、人骨形態、現代人ゲノムワイド遺伝子多型、古代ミトコンドリアDNA、先史文化の遺物と年代データを解析し、現在と古代の情報を相互に補うことによって、東南アジア・オセアニア地域における古代の人類の拡散ルートとその規模を解明し、二大仮説の検証とともに、この地域の人々の由来を明らかにすることを目的としています。
研究組織
研究代表者
氏名 | 所属 | 研究内容 |
---|---|---|
松村 博文 | 札幌医科大学・保健医療学部・教授 | 先史人類の形態解析 |
研究分担者
氏名 | 所属 | 研究内容 |
---|---|---|
斎藤 成也 | 国立遺伝学研究所・集団遺伝研究部門・教授 | 現生人類のゲノム系統解析 |
徳永 勝士 | 東京大学・医学系研究科・教授 | 現生人類のゲノムワイド解析 |
篠田 謙一 | 国立科学博物館・人類研究部・研究グループ長 | 先史人骨のミトコンドリアDNA解析 |
印東 道子 | 国立民族学博物館・民族社会研究部・教授 | オセアニア考古学 |
山形 眞理子 | 金沢大学・国際文化資源学研究センター・特任教授 | 東南アジア考古学 |
シンポジュウム
研究組織による成果は、個々のメンバーによって、国際的な雑誌論文、著書、学会発表、講演として着実に公表が積み重ねられている。これら個別の研究業績のほかに、研究組織による統合的・包括的な成果の発信を下記のような国内外にむけたシンポジュウムとしておこなっています。
IPPA (Indo pacific Prehistory Association) CONGRESS, ANGKOR, CAMBODIA 12-18 JAN 2014
Human dispersals and interactions in Asia and Oceania
Organizers: Hirofumi Matsumura, Hsiao-chun Hung, Naruya Saitou
Abstract: Interdisciplinary perspectives will address the origin, dispersal, and divergence of anatomically modern human populations in Asia, Southeast Asia and Oceania. How and when did these populations originate? What migration routes did they follow? What further developments took place in culture, society, and biology? Besides human migration, how do we observe cultural contacts and trade through archaeology? How do we recognize these patterns today? For answering these questions, archaeologists, skeletal anthropologists, and geneticists compare their current findings.
Abstract: Interdisciplinary perspectives will address the origin, dispersal, and divergence of anatomically modern human populations in Asia, Southeast Asia and Oceania. How and when did these populations originate? What migration routes did they follow? What further developments took place in culture, society, and biology? Besides human migration, how do we observe cultural contacts and trade through archaeology? How do we recognize these patterns today? For answering these questions, archaeologists, skeletal anthropologists, and geneticists compare their current findings.
- Peter BELLWOOD
The Role of Migration in Human Prehistory. - Hsiao Chun HUNG et al.
Late hunter-gathers and early farmers in southern China - Hirofumi MATSUMURA
Human migration in Neolithic East/Southeast Asia - Sofwan NOERWIDI
Chronology of Holocene Human Occupation of Java - Kenichi SHINODA et al.
Ancient DNA analysis of Paleolithic Ryukyu islanders - Naruya SAITOU
Human movements in East Eurasia estimated from DNA - Michiko Intoh
Can we distinguish‘human migration’from‘cultural contacts? - Ian GLOVER
Early Indian decorated bronze bowls found in Thailand - Mariko YAMAGATA et al.
Iron Age interactions across the ocean of Southeast Asia - Discussion:
Comments by Charles HIGHAM, Peter BELLWOOD and Ian GLOVER
第68回日本人類学会 2014,11月1日~3日 浜松アークシティにてのシンポジュム
Out of Africa:現生人類のユーラシア東部とオセアニアへの拡散移住史についての諸問題
- オーガナイザー 松村博文
- http://www.gakkai.ne.jp/anthropology/68_annual_meeting/symposium.pdf新規ページで開きます
- http://www.gakkai.ne.jp/anthropology/68_annual_meeting/新規ページで開きます
現生人類 がアフリカから拡散した時期と経路の解明は、いわば古くて新しい問題でもある。東ユーラシアおよびオセアニアの人類の形態は、大きな多様性を示し、そのことは複雑な移住史をたどってきたようにもみえる。しかし一方、脱アフリカまでさかのぼると、単系統あるいは2,3の少数の系統に起源が求められている。これまであたりまえのような存在としてみなされてきた北東アジア人は、その仮説としてユーラシア東部北上説と北部横断説が考えられているものの、西半球の人類集団との関係が不明瞭なままであり、現実にはユーラシア南部の集団や縄文人以上にその起源がわかっていないといえる。またいっぽうでは、近年のデニソア人の遺伝子解析は、オセアニアの現代人の一部にも共通の遺伝子がみいだされていることからさらにこの問題を複雑にしているようである。本シンポジウムでは、時代を限定せず幅広い時期と地域において、一線で活躍している各演者の取り組んでいる研究の現状と問題、これからの仮題を紹介した。
- 東ユーラシア二層構造モデルの構築に向けて
- 松村博文(札幌医大)
- 台湾平埔族のミトコンドリアDNA分析
- 篠田謙一、神澤秀明(科博)、安達登、角田恒雄(山梨大)、蔡佩穎、蔡錫圭(台湾大)
- 現生人類拡散ホモ・サピエンスのアジア初期拡散における“沿岸移住説”は正しいか?
- 海部陽介(科博)ゲストスピーカー
- オセアニアへの新石器文化集団の拡散:ラピタ集団以前にマリアナ諸島へ
- 印東道子(民博、総研大)
- DNAデータから推定された東南アジアにおけるネグリト人の拡散パターン
- 斎藤成也(国立遺伝研)
論文・図書・学会発表・講演
科研費データベースに掲載