ごあいさつ

学長挨拶

本教育GP事業推進代表者
札幌医科大学長  島本 和明

  本学の「死亡時画像診断(Ai)による教育支援プログラム」の取組は、平成20年度文部科学省の「質の高い大学教育プログラム(通称:教育GP)」の採択を受けました。
  この教育支援プログラムは、“患者の死”を契機として、医師に求められる豊かな感性と知性を自ら育むよう促そうという試みであり、本学における医学教育の質の向上を図り、かつ本学の建学の精神である「先取の精神と自由闊達な気風を旨とする創造性に富む人間性豊かな医療人を養成する」目的にかなうものと考えております。本学は昨年の10月に「医療人育成センター」を設置し、教養教育の充実を含め、患者さまやご家族にきちんと対応できる医療人の育成を目指しているところです。
  ところで、この取組は、教育GPについて学内で公募した際の放射線医学講座の教員のアイディアがきっかけとなっています。申請に向け議論をする中で、核家族化が進行し、身内の死を経験していない学生にとってもメリットがあり、ご遺族の皆様にとっても、患者の死にきちんと向かい合える医師を育てていくことは、ある種の慰めにもつながるのではないかと思うに至りました。審査の結果、審査員の皆様からも高い評価をいただいたことは、大変うれしいことでした。
  現在、病理学と放射線医学の教員が協力しながら平成21年度の本格実施に向けて、準備を進めているところです。実施にあたっては、さらに、放射線技師を始めとする医療及び事務スタッフの協力が不可欠になってくるでしょう。さらに、この取組は、不幸にして身内を亡くされたご遺族のご理解とご協力がなければ立ちゆきません。
  「死亡時画像診断(Ai)による教育支援プログラム」の取組を学内、学外の方々に広く知っていただきますとともに、本取組に対するご支援を改めてお願い申し上げます。

患者さま・ご家族の皆様へ

本教育GP事業推進責任者
札幌医科大学医学部病理診断学
教授  長谷川 匡

  本学の「死亡時画像診断(Ai)による教育支援プログラム」は、知性教育と感性教育の2つの大きな柱から成り立っています。
  本学附属病院においては、治療の甲斐なく不幸にして患者さまがお亡くなりになった際、ご遺族のご承諾が得られた場合、本学の医学教育・研究に不可欠であるご遺体の病理解剖を行って参りました。この病理解剖に加え、ご遺体をCT(コンピュータ断層撮影装置)などで撮影することによって、さらに体系的かつ多角的に死を捉えることが可能になります。死因を究明する思考過程の中で、病態生理、治療効果、診断の適否を学んでいく知性教育は、医療を学ぶ学生にとって、欠かすことのできないものです。
  一方、核家族化の進行により、身近に暮らしていた人の死を経験していない学生が増えてきています。「死」という現実を想像でしかイメージしたことのない学生が、卒業し臨床の現場に出ると、遠からず患者さまの死に遭遇し、その親族の深い悲しみの中心に放り込まれるわけです。その医師にとっては初めての経験でも、その場にいる親族にとっては、やり直しのきかない大変厳粛な場面です。そこでの軽率の対応や思いやりを欠いた言動は、その医師や医療機関への不信感に直結し、仮にそれまでの治療対応が十全であったとしても全ての印象を台無しにしかねないほどの危険をはらんでいます。
  本プログラムのもう一つの柱である感性教育では、病理解剖の実施にご承諾をいただいたご遺族に、故人様が亡くなられてしばらくして、ある程度落ち着かれた時期を見計らい、緩和医療の専門家である教員立ち会いのもと、学生からお話をうかがう機会やアンケートの実施をお願いしたいと考えております。その機会に、故人様の闘病中のご苦労、故人様とお別れしたときのお気持ちなどをお伺いさせていただき、将来医師を目指す学生に対しご示唆を賜りたいと思います。
  この教育支援プログラムは、「死」という大変デリケートなテーマを正面に据えておりますことから、患者さまやそのご家族、病院スタッフ、地域住民ひいては道民の皆様のご理解、ご協力が欠かせません。公開講座等の開催を含めまして、本取組を皆様に知っていただくための努力をしてまいりますので、今後ともより一層のご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。