成人期における先天性免疫異常症診療について
先天性免疫異常症 (Inborn Errors of Immunity: IEI) とは、先天的な単一遺伝子異常により起こる免疫異常で、免疫不全により易感染性を伴う病態のみならず、自己免疫応答や自己炎症を誘発する免疫異常症を包括した疾患概念です。今までは小児科を中心として診療や研究が進められてきた領域ですが、近年になってIEIの一部は成人期になって発症することが分かり、自己免疫疾患や自己炎症疾患を扱うリウマチ・膠原病内科で診療を行う機会が増えてきています。
IEIとは包括概念であり、それぞれの遺伝子異常により表現型は多彩であることから、時に診断は困難を極めます。特に本邦の保険診療範囲内でできる検査では、免疫グロブリン・補体価の測定やワクチンに対する特異抗体産生能検査、好中球貪食能などに限られており、診断のための詳細な検査は各専門施設における研究室レベルの検討に頼っているのが実情です。近年、日本免疫不全・自己炎症学
(JSIAD) とかずさ遺伝子検査室により、疾患の特徴に応じた複数の遺伝子パネル解析が保険診療で可能となりましたが、解析対象遺伝子は報告されているIEI関連遺伝子の20%程度と限定的のため、診断困難なIEIについてはJSIADの相談システムや国立研究開発法人日本医療研究開発機構の未診断疾患イニシアチブ
(IRUD) を通して専門施設での検討が必要です。当教室はJSIADおよびIRUDの相談受け入れ研究室として、IEI疑い成人症例の診療補助を行っており、北海道における先天性免疫異常症診療ネットワークの構築に尽力しています。