札幌医科大学 医療人育成センター 

  
教養教育研究部門
 生命医科学の発展はめざましく、「いのちのしくみ」や「病気のしくみ」に対する理解が年々深まってきています。また、これにともなう技術革新によって、医薬や医療技術は常に更新され続けており、過去20年間で医療技術は脅威的なまでに進歩しました。しかも、いま現在も幾何級数的な勢いで進歩し続けています。このため現代の医師や医療従事者は、生涯にわたって新しい知識を学び続けなければならなくなっています。学生時代に学ぶ知識や技術は十数年で旧式化してしまい、常に新しい知識を獲得し日々更新し続けなければプロフェッショナルな医療人でいられない時代なのです。
 パスツールは「チャンスは準備されたこころにのみ訪れる」と言いました。この場合のチャンスとは「偶然にものごとの本質に気づく機会」のことで、これには「幅広い知識と多面的なものの見方をするこころ」が重要だということです。医師および医療従事者の場合は、患者さんを診る(看る)に当たって、豊富な知識をベースに多面的に考えることが、病気の本質を見極めるのに重要だということになります。実際、「準備されたこころ」を持つひとりの地域医療従事者が気づいた「本質」が、医療の世界に革新をもたらすことは珍しくありません。逆に、専門分野の知識に頼っているだけでは、どんなに深い知識であっても多面的に考えることができなければ、定型的あるいはマニュアル的な対応しかできなくなってしまう恐れがあります。患者さん一人ひとりの病気の本質に気づき適切に対応することがすべての医療人に求められていますが、このためにも幅広い教養が重要なのです。
 しかし医科大学における教養教育では、大学1年次の1年間という短い期間しかなく、幅広い教養諸分野のエッセンスをすべて学びとることは到底できません。そこで私たちは、将来「準備されたこころ」を獲得できるように、さまざまな学問分野の考え方やものの見方を教えます。具体的には、重要な科目についてそのエッセンスを系統的に講義しますが、この際に最新のトピックや歴史的エピソード、興味を惹く豆知識などを紹介することによって、教養を学ぶことのおもしろさを伝えるとともに、各学問分野に特有なものの見方や考え方を教えます。このような教育により、専門課程進学後あるいは卒後においても、日常的に幅広く教養を学ぶ習慣を身につけさせたいと考えています。これは、日常的な生涯学習習慣、すなわち新しい知識を日々獲得し更新し続ける学習習慣にもつながり、プロフェッショナルな医療人に欠かせない素養です。


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