Entered: [1998.03.24] Updated: [1998.04.07] E-会報 No. 41(1998年 3月)
研究室紹介

北大・医学部・癌研究施設・細胞制御部門
守内哲也


 [沿革] 北大医学部癌研究施設細胞制御部門は平成4年4月に癌研究施設の5番目の教室として発足し、初代教授に故武市紀年博士が就任しました。武市教授の在任中は肝炎・肝癌を自然発症するLECラットの研究が精力的に行われ、LECラットの写真がJpn. J. Cancer Res.の表紙を飾りました。平成7年に私(守内)が二代目教授として故武市教授の研究プロジェクトを受け継ぎましたが、研究手法はそれまでの実験病理学的手法から分子生物学的手法に変わりました。現在さらに、酵母を用いた分子遺伝学的手法へ移行しています。特に、臨床遺伝学専門医・指導医が2名(守内、外木)加わったことにより、臨床材料を用いた研究課題が増加しつつあります。

 [研究者数] 1998年2月1日現在、18名が研究に従事しています。その内訳は、教授(守内哲也)、講師(浜田淳一、外木秀文)、大学院生6名、受け入れ大学院生9名そして 技術員1名です。

 [研究課題]

 1. 肝炎・肝癌自然発症ラット(LEC)を用いた肝炎・肝癌の発生に関する研究(守内)

 特に、セレン依存性の肝細胞アポトーシス、LECラットで欠損している転写因子の決定、そして癌抑制遺伝子p53のtranscriptional slippageに関する研究を行っています。中でも、我々が最近発見したp53遺伝子のtranscriptional slippageに注目しています。これは、coding領域内にアデニンが6個(6As)以上連続すると鋳型DNAからmRNAが転写される場合にアデニンが1個余計に挿入されるか欠失する現象で、frame shift変異になります。この現象がLECラットの急性肝炎から慢性肝炎期にかけて高頻度に起こり、p53 mRNAの20-30%を占めるようになります。この現象の機序と肝癌発生との関連に興味を持っています。

 2. 癌転移成立の機序の解析(浜田淳一)

 癌転移の臓器選択性を規定する因子、癌細胞の細胞運動を制御する因子、癌抑制遺伝子PTENの機能、増殖因子(EGF、TGF-β)による癌細胞の転 移・浸潤関連形質発現の修飾が研究テーマです。特記すべき発見としては、胎生期の形態形成調節遺伝子であるホメオボックス遺伝子群のHOXD3遺伝子がインテグリンβ1依存性の細胞運動をインテグリンβ3依存性にスイッチングすることを見出したことです。この研究によって、発生学の観点から癌転移を研究する道が開かれると考えています。

 3. 酵母を用いた遺伝子診断法の開発(外木秀文)

 DNA結合蛋白の機能変異検出系の開発(p53, p73)、フレームシフト変異およびナンセンス変異検出系の開発(APC, PTEN)、蛋白間相互作用に基づくtwo-hybrid遺伝子診断法の開発(APC)、新しいtwo-hybrid系cDNAクローニング法の開発等が研究テーマです。これらに共通しているのは、酵母の遺伝子相同組換能を利用している点で、p53のyeast functional assayでは、従来のPCR-SSCP法に比べ1.5-2倍の検出感度が得られています。特に口腔癌ではp53変異の検出率が従来の35%から79%に上昇しました。この結果、癌患者の予後とp53変異との相関を明確に示すことができるようになりました。これらの方法は癌の早期遺伝子診断に極めて有効な手段となると考えています。

 [教室の雰囲気] スタッフの部屋は中研究棟の4階にあり、研究の実働部隊の実験室は2階にあります。2階の実験室には15名が座れる大きなテーブルとソファーおよびベッドが置いてあり、ここで生活できるようにしてあります。スタッフの部屋とは離れているので精神的なプレッッシャーを受けずに研究できるようです。癌研細胞制御部門は癌研病理部門と共同運営していますので、研究者は両方の教室を利用しています。また、昼の抄読会、夏・冬の研修会、月1度の研究会、新人の歓送迎会などの行事も全て共同で行っています。従って、細胞制御部門と病理部門は実質的には1つの教室で、いわゆる大部門制になっているので、大学院生には都合が良いようです。今後もこのような体制は維持して行きたいと考えています。

 [インターネット] 北大医学部のホームページ(http://babu.med.hokudai.ac.jp/)から入って、学部案内の附属教育研究施設をクリックして、さらに細胞制御部門をクリックしていただくと教室の紹介が出ます。この中で分子生物学リンクだけは約4カ月ごとに更新しています。これは医学部の推薦リンクにもなっていますので医学部のホ―ムページの推薦リンクをクリックしていただいても同じ画面が出ます。文献検索、遺伝子解析、蛋白解析、その他さまざまなサーバーにアクセスできるようになっており、更新して1カ月半で560件の利用がありました。ぜひご利用下さい。

 [教室の今後] 現在、医学部癌研究施設と免疫研究所との統合が計画されており、新研究所の名称は「遺伝子病研究所」となる予定です。北大に生物医学系の大きな研究所ができ、生物系の多くの学部および他大学との協同研究が推進されることによって生物医学研究の北の拠点となることを願っています。

  北大癌研細胞制御部門
 Tel:011-706-6082
 FAX:011-706-7870
 Tetsuya Moriuchi e-mail tetumori@med.hokudai.ac.jp


<カット>川野裕美

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