Dana-Farber Cancer Institute, Harvard Medical School
MAPキナーゼ情報伝達系は酵母からヒトに至るすべての真核細胞に良く保存されており,3種のprotein kinase (MAPKKK-MAPKK-MAPK)により構成される.これまでヒトにおいては3種のMAPK pathway,すなわちErk, p38, JNK経路の存在が報告されているが,このうちp38及びJNK pathwayは種々の物理化学的ストレス(DNA損傷,高浸透圧等)により活性化され,cell cycle arrestやアポトーシスの誘導に寄与することが知られている.興味深い事に,出芽酵母のHOG pathway (SSK2/SSK22-PBS2-HOG1)はヒトp38/JNK pathwayと構造的にも機能的にも高い類似性を有する.我々はヒトストレス応答MAP kinase情報伝達系の制御機構を明らかにするため,酵母Hog pathwayの変異株を用いて,ヒト遺伝子のfunctional cloningを行った.はじめに酵母SSK2/22の変異株にヒトcDNA発現ライブラリーを導入することで,酵母MAPKKKに高い相同性を有する新しいヒト遺伝子,MTK1をクローニングした.MTK1はin vivo及びin vitroにおいてp38/JNK pathwayを活性化し,ストレス経路に特異的なMAPKKKであることが確認された.さらにMTK1の活性化機構を明らかにするため,Two-hybrid法を用いて,MTK1調節ドメインに特異的に結合する分子の同定を行った.この結果,GADD45と高い相同性を持つ2種の新しい分子を得た.これら3つのGADD45関連遺伝子は種々のストレス刺激によりその発現が誘導され,MTK1と結合することでactivatorとして作用することが明らかとなった.また,GADD45関連遺伝子の過剰発現によりアポトーシスが誘導されたが,これは不活性型MTK1ミュータントの導入により抑制されることから,GADD45はMTK1を介してp38およびJNK pathwayを活性化し,細胞にアポトーシスを引き起こすことが示唆された.
次に,ヒトストレスpathwayをdown regulateする分子を同定するために,酵母HOG pathwayの活性化を抑制するヒト遺伝子の同定を行った.その結果,PP2Caタイプのprotein phosphataseを得た.PP2Caを哺乳類細胞に導入すると種々のストレス刺激によるp38及びJNKの活性化が強く抑制された.In vivoおよびin vitroの実験から,PP2CaはMAPKK (MKK6,SEK1) およびMAPK (p38) を脱リン酸化し,これらのkinase活性を抑制すると考えられる.以上の結果から,PP2Caがストレスに対する細胞応答をネガティブに制御していることが示唆された.