Entered: [2000.03.13] Updated: [2000.05.16] E-会報 No. 46(1999年 11月)
第10回 分子生物学交流会

表面プラズモン共鳴 (Surface Plasmon Resonance) 技術を用いた
生体分子相互作用解析測定
ビアコア(株)学術部
稲川 淳一


 生物の生命を維持する様々な生体反応は,これに関与する2つあるいはそれ以上の生体分子の相互作用によって制御されている.これらの生体反応を分子レベルで解明することは,その生体分子の機能や特性を知る上で非常に多くの情報を与える.

 近年,表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance, SPR)という光学現象を測定原理としたバイオセンサーが開発され,生化学,医学,分子生物学を中心に,幅広い分野で利用されている.BIACOREは,スウェーデンのBiacore社によって開発されたバイオセンサーで,現在,全世界の大学,官庁あるいは企業などに広く利用され,文献数は1500報以上(1999年9月現在)が報告されている.生体分子間の相互作用を標識なしでリアルタイムにモニターでき,その親和性(解離定数KDあるいは結合定数KA)だけでなく,反応速度論的パラメータ(結合速度定数ka,解離速度定数kd)を得ることができるという特徴を持っている.つまり,結合の速さ(複合体生成の速さ)や解離の速さ(複合体の安定性)を評価でき,その反応の生物学的機能の解析を行うことができる.

 実験の手法としては,相互作用を示す片方の分子をセンサーチップ上に固定化し,これにサンプルを添加することにより生じる相互作用(結合)をリアルタイムにモニターする.サンプルは,一切の標識を必要とせず,また,クルード(Crude)なサンプルを使用することができる.データは,センサグラムと言われるグラフとして表示され,このグラフから各種反応速度定数を算出する.1回あたりの分析時間はおおよそ10分間程度である.

 応用分野としては,抗原抗体反応を始めとして,シグナル伝達系,核酸-核酸あるいは核酸-タンパク質相互作用,接着因子,アポトーシス等のあらゆる分野に利用されている.また,その対象は基礎研究の分野のみならず,リセプターのリガンド検索,新規医薬品のスクリーニング,薬物の作用メカニズムの解析など医薬開発研究分野にも拡がっている.

 さらに,最近,マススペクトルとの組み合わせによる,プロテーオーム解析への応用の試みも行われている.例えば,相互作用を示す片方の分子をセンサーチップに固定化後,培養液等を添加し,結合確認後,結合物資をバイヤル中に回収する.さらに回収したサンプルをマススペクトルにかけ,タンパク質の同定を試みている.また,結合物質を回収せず,センサーチップに結合させたままマススペクトルにて分析する方法も試みられている.今後,これらの技術はオーファンレセプターのリガンド検索等のスクリーニングにおいて,結合物質の同定に一般的に利用されて行くことが予測される.

 本講演では,BIACOREの各種アプリケーションを紹介し,今後の応用分野の展開の可能性を考察したい.


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編集幹事:伴戸 久徳 hban@abs.agr.hokudai.ac.jp