Entered: [2000.03.13] Updated: [2000.05.16] E-会報 No. 46(1999年 11月)
第10回 分子生物学交流会

フォボロドプシンの研究
北海道大学・大学院薬学研究科
加茂 直樹


 バクテリオロドプシン(bR)は高度好塩菌(Halobacterium salinarum,以前はH. halobium)に存在するレチナールを発色団とする膜タンパクである.bRは光駆動プロトンポンプであり,容易に多量取れることや極めて安定であることから,研究が進み,「もっともよく分かった膜タンパクの一つ」である.

 H. salinarum には他に少なくとも3つのロドプシン様膜タンパクが存在する.それらは,ハロロドプシン(hR),センソリーロドプシン(sR)およびフォボロドプシン(pR,欧米の文献ではsRII)である.hRは1977年のMatsuno-Yagi, Mukohataによる報告が契機となって発見され,光駆動ハロゲンイオンポンプである.sRは1982年に,Spudich, BogomolniおよびTsuda, Hazemoto, Kamoら(札幌グループ)によって独立に発見された.pRは1985年にTakahashi, Tomioka, Kamoらによって発見された.バクテリアのロドプシン様タンパクは,光を吸収して色々な光化学中間体を順に経て元の状態に戻る光化学反応をし,これはフォトサイクルと呼ばれている.sRは暗所で約570 nmに吸収極大を持ち,このような長波長の光を吸収すると菌体は正の走光性(光に寄っていく)を示す.sRは正の走光性の受容体である.また,面白いことに,長寿命の光化学中間体(373 nmに吸収極大)は負の走光性の受容体として働く.自然界ではこの中間体を作る長波長の光は常に存在しているので,この負の走光性は生理的に意味がある.一方,pRは約500 nmに吸収極大をもち,負の走光性の受容体である.sRとpRによって,この菌は長波長の光には正の走光性を示し,短波長の光には負の走光性を示す.

 さて,pRの研究は困難であった.理由の1つは,その発現量が少ないことであり,量は大まかに,bR:hR:sR:pR = 1:1/10:1/100:1/1000 である.もう1つの理由は界面活性剤で変性してしまうことである.1992年に我々の研究室のHirayamaによって,高度好塩好アルカリ性菌Natronobacterium pharaonis からpRに類似した膜タンパクが初めて精製(完全にではないが)された.我々は,pharaonis phoborhodopsin (ppR)と名付けた.最近ppRの大腸菌での発現に成功した.講演では光化学反応を中心にppRの性質を述べる.


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