最初のロタウイルスワクチンであるRotashieldは1998年に認可され、10カ月間米国で使用された後、約1万人に1人の割合で腸重積症を起こす疑いのため、1999年にはメーカーが製品の回収を行い、また、ACIP(予防接種諮問委員会)もAAP(米国小児科学会)も定期接種の勧奨を撤回した。これを引き継ぐ第二世代のロタウイルスワクチンとしては、同じく、経口投与型の弱毒生ワクチンであるRotarix とRotaTeqが主力であり、2007年3月現在で、Rotarixは88カ国、RotaTeqは47カ国で認可されている。また、いずれかのワクチンを定期接種に導入している国は、ブラジル、米国、ベネズエラ、パナマ、エルサルバドル、メキシコ、ベルギー、エクアドル、ペルー、ニカラグアの10カ国であり、接種対象となる乳児の数は年間1000万人を超えている。世界の趨勢をみるとロタウイルス下痢症の疾病負担やワクチンの必要性が議論される時代は終了し,ポストマーケティングの時代にあってロタウイルスワクチンの評価をどう行うかという点に重点が移行してきている。
世界的視野に立てば,次のようなシナリオのもとにロタウイルスワクチンをめぐる動きが展開している。世界は,第一世代のワクチンであるRotashieldの躓き(つまづき)による5年間のギャップを乗り越え,第二世代のRotarix(弱毒化ヒトロタウイルスRIX4414株からなる血清型G1P[8]の単価ワクチン)とRotaTeq(ウシロタウイルスWC3株を親株にし,防御に重要な中和抗体を惹起する血清型G1〜G4のVP7とP[8]のVP4タンパクをコードする遺伝子をヒトロタウイルスからとった5価の遺伝子分節組換え体ワクチン)を受け入れはじめた。今後2〜3年の間にBRV-UKをはじめとする第三世代のワクチンが開発途上国を中心にライセンスされRotarixとRotaTeqに少しずつとって変わっていくだろう。(ここでいう世代はあくまでも,ライセンスされ実地に使われる時代区分によるもので,開発時期にはほとんど差がない。)
一方,ワクチンをどう使いロタウイルス下痢症による疾病負担をいかに逓減させるか(途上国にあっては死亡)という問題は,世界を先進国と途上国に単純に二分するよりも,前者を米国,EU,オーストラリアに3区分し,後者をラテンアメリカ,アジア,アフリカ(主にサハラ以南のアフリカ)に2(〜3)区分して考察するのが適当である。先進国ではワクチンはすでに認可され,定期接種化が問題になっている。米国ではすでに定期接種へと導入され,EU諸国では議論の真最中である。オーストラリアでは定期接種への導入が見送られた。途上国では,ラテンアメリカ諸国ではワクチンの有効性が確立し基本的に定期接種である。アジア,アフリカの最貧国では2009年にわかるワクチンの有効性に関する臨床試験の結果をまってGAVI等による援助が本格化することになっている。