特別企画 [今冬におけるノロウイルス胃腸炎の大流行について]

2006-2007年の間に流行したノロウイルスのウイルスゲノム解析

○ 本村和嗣 (1),岡智一郎 (2),中村浩美 (1), 守宏美 (1) , Hansman Grant (2),横山勝 (1),
片山和彦 (2), 神田忠仁 (1),武田直和 (2),佐藤裕徳 (1)

国立感染症研究所 病原体ゲノム解析センター (1) ,ウイルス2部 (2)


【背景】ノロウイルスは、他のRNAウイルス同様に高変異性と考えられる。ノロウイルス感染症の監視と制御には、自然界で生じる変異の種類や分布等、変異の実態を正確に把握する必要がある。しかし、これまで国内で流行したノロウイルスのゲノム情報は著しく少ない。そこで我々は、我が国において冬期に流行したノロウイルスのゲノム情報の蓄積を開始した。今回は、2006-2007冬期に全国各地で流行したノロウイルスGII4株のゲノム解析結果を報告する。

【対象と方法】2006年10月から2007年1月に、11の都道府県で発生した55例のノロウイルス感染者から得られたウイルスゲノムを解析した。各都道府県の地研で異なる時期に収集した糞便検体を出発材料とし、ウイルスRNAを抽出した後、GII4株特異的プライマーを用いてcDNAを合成した。相互に重複するノロウイルスゲノム断片(約5kbpsと2.5kbps)をPCRにより増幅し、精製の後、ABI3730を用いてシークエンシングした。

【結果と考察】37の糞便試料からGII4ゲノム全長(約7.5 kbps)の塩基配列を得た。ウイルスのキャプシド蛋白質VP1・VP2をコードする領域について系統樹解析を行なった結果、 (i) 2006-2007冬期のノロウイルス感染症では、異なる起源をもつ3種類のGII4株が流行していたこと、(ii) 一昨年、愛媛、堺、千葉で流行したウイルス株は全国的規模で流行していないこと、(iii) これまでの流行株とは異なるVP1・VP2配列をもつ新型ウイルスが、全国的規模で流行していること、などが示唆された。現在、VP1蛋白質の立体構造変化について、計算科学の手法を用いて解析中である。

謝辞
糞便試料の収集に、以下の先生にご協力いただきました。
吉澄志磨先生(北海道立衛生研究所)、三上稔之先生(青森県環境保健センター)、斉藤博之先生(秋田県健康環境センター)、植木洋先生(宮城県保健環境センター)、滝澤剛則先生(富山県衛生研究所)、小林慎一先生(愛知県衛生研究所)、田中智之先生、内野清子先生(堺市衛生研究所)、野田衛先生(広島市衛生研究所、現国立医薬品食品衛生研究所)、近藤玲子先生(愛媛県立衛生環境研究所)、船津丸貞幸先生(佐賀県衛生薬業センター)、松岡由美子先生(熊本市環境総合研究所)


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