トピックス

ロタウイルスの新知見


小林宣道 札幌医科大学医学部衛生学


ロタウイルスの新知見(研究の現状)について2004年9月から2005年8月までの1年間に公表された論文から抜粋して報告する。主な論文の要点は以下の通りである。

[略語:RV(ロタウイルス) , 誌名:Vir(Virology) , JV(J. Virol.) , JCM(J. Clin. Microbiol.) , JGV(J. Gen.Virol.) , JI(J. Immunol.) , PNAS(Proc. Natl. Acod. Sci. USA) , AV(Arch. Virol) , EI(Epidemiol. Infect.) , Vac(Vaccine) , VR(Virus Res.) , JCS(J. Cell Sci.) , CDLI(Clin. Diagn. Lab. Immunol.)]

1. 疫学
<A群RV>
  1. G9 HRVの検出・増加(EID10:1593, JCM43:1374, 4064, JMV76:414, RMV15:29, etc.)
  2. G9 HRVの遺伝学的3系統とブタG9 RVとの関連(Vir332:177)
  3. G2様ブタRVの検出(34461-4株, P[23])
  4. G4 HRVのVP7遺伝子の多様性(JCM43:1420)
  5. P[6] HRVのVP4遺伝子の多様性(JCM42:4338)
  6. 新しいP遺伝子型の報告 P[24]:TUCH株(rhesue macaque, G3, subgroup I) , P[25]:Dhaka6(human, G11) , P[?]:ICB2191, ICB2212(porcine)
<B群RV他>
  1. 中国武漢市で2002年に検出されたWH-1株の遺伝子解析(JMV74:662)
  2. インド西部で1993年以降の下痢便検体よりB群HRV検出(EI132:745)
  3. インド東部で検出された新しいVP7遺伝子型に属するウシB群RV(JCM42:2816)
  4. ウシB群RVNemuro株のVP6遺伝子解析、発現蛋白による血清疫学(JGV86:2569)
  5. 中国で検出された、A, B, C群に属さない新奇な成人下痢症ウイルス(ADRV-N)の遺伝子配列(segment 5. 6, 7)の解析(VR106:15)
2. 感染・増殖機序
  1. 外殻蛋白VP4の結晶構造の解析、トリプシンによるVP4の切断・開裂は、VP4の再編を起こし細胞への侵入が促進される。(Nature 430:1053)
  2. トリプシン処理RVは最初にVP4が細胞表面に結合する。感染に細胞表面のシアル酸を必要としない変異株nar3はVP7が細胞に結合する。(JV78:10839)
  3. ロタウイルス粒子の細胞内での形成過程において、VP4はraft membraneとアソシエートし、VP4のウイルス粒子へのアセンブリーはER腔外で起こる。(JV78:10987)
  4. VP8は上皮細胞のタイト結合を可逆的に障害し、物質透過性を高める。(JCS 117:5509)
  5. RV粒子を高いpH下におくと、VP4にコンフォメーショナルな変化が起き、細胞のレセプターと結合する部位が露出される。中和抗体の結合は、VP4の立体変化を阻止する。(JV79:8572)
  6. ブタRV OSU株のノイラミンダーゼ処理感受性株には、VP4に単一アミノ酸置換により、シアル酸結合に関与するクレフトにコンフォメーショナルな変化が起きている。(JV79:10369)
  7. NSP5は自らリン酸化の基質となると同時にそのアクチベータとしても作用する。(PNAS46:16304)
  8. NSP5に対する細胞内抗体の発現により、またgene11 mRNAへのSiRNAの作用によりviroplasmの形成(集合)が抑制される。(JGV85:3285, 86:1481)
  9. 細胞内でのRV粒子形成過程でNSP4はER膜上で二重殻粒子へのレセプターとして働きER腔内への出芽を進める。VP7は最後に脂質エンベロープが除去されるのに必要である。(JV79:184)
  10. RVのコア(open core)がRNA合成を行う際、鋳型となる、ゲノム2本鎖RNAおよびmRNAでは、認識されるシグナルが異なる。(AV 149:1815)
  11. Cyclooxygenases(COXs)とPGE2はRV感染における重要なメディエーターであり、これを抑制する薬剤はRV感染を抑制する。(JV78:9730)
  12. 腸管粘膜上皮における杯細胞(goblet cell)とムチンはRV感染に対し能動的防御効果をもつ。(Vir337:210)
3. 病原性・病態生理
  1. ビタミンA欠乏はRVによる腸管上皮細胞の障害を増大し、重症化を導く。(Int.J.Vitam.Nat.Res74:355)
  2. RV感染による細胞膜のCa透過性が亢進(Vir333:54)
  3. RRV株はCaco-2細胞への感染に際しアポトーシスを誘導(Vir332:480)
  4. 無菌ブタモデルにおいて、HRV Wa株の経口(または経鼻)接種により、下痢とともにウイルス血症、ウイルスの鼻腔内排出がみられる。(JV79:5428)
4. 免疫
  1. RV特異的メモリーB細胞は全身性、腸管ホーミング性細胞いずれも免疫グロブリンH鎖遺伝子VH1-46を有する。(JI174:3454)
  2. マウスのRV感染系で、VP6は主に腸管に限局性の、VP7は全身性のCD4+およびCD8+T細胞応答を惹起する。(JV79:4568)
  3. 血清IgMはRV急性感染の指標、IgGレベルは重症化阻止の指標として有効(CDLI12:273)
  4. VP6は新生児から成人に至るまでの幅広い年齢層からのB細胞(ナイーブB細胞)と反応。それに対し、VP7反応性のB細胞は、RV既感染者のCD27+メモリー細胞分画に限られる。(JV78:12489)
  5. RV特異的IgGによる受動免疫を受けたアカゲザルでは、RVの経口チャレンジによる感染が阻止あるいは抑制される。(PNAS102:7268)
  6. 幼若アカゲザルでのRVに対するT細胞応答の確認(JV78:10258)
  7. RV感染急性期、回復期における、RV特異的B細胞(IgM, IgA産生)のマーカーの解析(JV78:10967)
  8. RV感染細胞内ではNSP1がIRF-3を破壊し、減少させる。これによりインターフェロン産生(自然免疫)が抑制される。(PNAS102:4114)
  9. γ-IFN ELISAによる、VP6ペプチドに対するメモリーT細胞レスポンスの検出(JV79:5684)
5. ワクチン・感染防御
  1. Baboon, Vervet monkeyはHRV感染のモデル動物として有用(Vac23:1522)
  2. マウスにおいて、RV DNAワクチン(VP6-cDNA)の経口、経鼻接種により、抗RV VP6 IgAの産生が誘導され、RVチャレンジ後のウイルス排出量減少(Vac:23-489)
  3. RV VP8-cDNAを組み込んだTMV-30Bベクターにより発現させたVP8は母マウスへの接種により受動免疫が賦与される。(AV149:2337)
  4. VP6とアジュバントのマウスへの経口(経鼻)接種によるRV感染防御(Vac23:2290)
  5. VLP2/6(VP2+VP6)粒子のマウスへの経口(経腹腔)接種による全身、粘膜免疫応答(AV150:341)
  6. 無菌ブタへの弱毒化Wa株の免疫とDNAワクチン(VP6-cDNA)の接種では、Waのチャレンジによるウイルス排出は抑制するも下痢の防御率は低い。(Vac23:3925)
  7. ブタRV Gottfried株(P2 B6, G4)をベースとした単一HRV VP7(or VP4)遺伝子置換リアソータントの作成;G1-6, 8-10, P[4] , [8] , [6]をカバーする新たなワクチン候補(Vir23:3791)


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