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ノロウイルス、サポウイルスに関する新知見


岡 智一郎、片山 和彦、Hansman S. Grant、武田 直和


国立感染症研究所ウイルス第二部


ノロウイルスについて

 ヒト由来のノロウイルス (NoV)については近年、蓄積されたゲノム情報に基づき、高感度核酸検出法が開発され、診断がより確実に行えるようになった。現在も様々なNoV検出系の開発が進められている。この結果、NoVによる感染性胃腸炎は、わが国を含め世界各地で発生し、ウイルス性集団食中毒発生事例の95%以上を占めていることが明らかになってきた。

 しかし、ヒト由来のNoVは、いまだ細胞培養系、実験動物系が報告されていない。そのため、その感染、増殖メカニズムはいまだ不明な点が多い。

 今年になり、哺乳動物細胞内でヒト由来のNoVゲノムを発現させたところ、ゲノムを内包するウイルス様粒子の作製に成功したとの報告がなされた。現時点ではこの粒子が感染性を有するか否かは明らかでないが、これにより、NoVゲノムパッケージングのメカニズムに関して新たな知見が得られることが期待される。我々もすでに同様の結果を得ているが、ヒト由来NoVの感染、増殖のメカニズム解明のためには、細胞培養系の確立が強く望まれる。最近、免疫不全マウスから分離されたNoVは、細胞培養可能であると報告されていることから、このマウス由来株からNoVの感染、増殖メカニズムを解析する上で有用な情報が得られることが期待される。


サポウイルスについて

 サポウイルス(SaV)は、ヒトおよびブタから分離が報告され、現在、構造遺伝子領域の配列により、5つのgenogroup (GI-GV)に分けられている。ブタから分離されたPEC cowden株は細胞培養系が確立されているが、ヒト由来のSaVは、NoVと同様、いまだ細胞培養系も実験動物系も報告されていない

 PEC cowden株についてはinfectious cloneの作製が報告された。今後、reverse geneticsの手法により、SaVの基礎的な研究が進展することが期待される。


以下、我々の取り組みについて紹介する。

 SaVゲノムの全貌を理解するため、複数の株について全長ゲノムの塩基配列解析を進めてきた。今年度は、新たに複数のGIV, GV株について解析を終え、ヒト由来のすべてのgenogroup (GI, GII, GIV, GV)のSaV株について全塩基配列情報を得ることに成功した。この知見は遺伝的に多様なSaV株をより確実に検出するための核酸検出系の確立に有用であると考えている。

 我々は昨年度までにSaV GI, GII, GV株について昆虫細胞発現系を用いたvirus-like particles (VLPs)の作製に成功し、異なるgenogroupで抗原性が異なることを報告した。現時点ではヒト由来のSaVの培養系がないため、SaVをより確実に検出するための抗原抗体検出系の開発には多様な株のVLPsの作製が必要と考えられる。しかし、我々が用いたGII株は昆虫細胞発現系でのVLPs発現量が著しく低く、また、あるGII株については昆虫細胞発現系でまったくVLPsの発現を認めなかった。そのため、この株について新たに哺乳動物培養細胞を使用したSaV VLPs発現系を試みたところ、抗血清を得るのに十分なVLPsの作製に成功した。この発現系は昆虫細胞発現系での発現が困難な株のVLPs作製に使用できる可能性がある。今後さらに、複数の株についてVLPsの作製を試み、ジェノグループ間での交差反応性の検討、抗原抗体検出系の開発を進める。

 SaVのゲノムは2ないし3つのオープンリーディングフレーム (ORFs)をコードし、ORF1は共通して、非構造および構造タンパク質をコードする。我々は昨年、SaV ORF1の切断産物地図をはじめて報告した。今年度は、さらにこれらのすべての切断部位の同定に成功した。その結果、SaVは多様な抗原性を有するにもかかわらず、ORF1の切断部位はGI-GV株間で保存されていることが明らかとなった。またSaVプロテアーゼの活性発現に必須な領域、およびアミノ酸の決定も行った。

 最後に、我々が取り組んでいるそのほかのテーマについても、簡単に紹介する予定である。


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