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第39回日米医学ウイルス性疾患専門部会の報告


中込とよ子

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科  病態分子疫学分野(旧医学部衛生学講座)


 第39回日米医学ウイルス性疾患専門部会は,サンフランシスコで開催された国際ウイルス学会議に引き続き,8月28日から29日にかけての2日間にわたりパロアルトのスタンフォード大学クラークセンターで開催された。日米医学40周年の記念大会が昨年12月に京都で開催されたため,この時期の開催は米国の会計年度(10月から翌年9月)からすると同じ年に2回の日米ウイルス部会開催となった。したがって今回は米国側にとって正規の予算がなくホストであったスタンフォード大学のGreenberg教授とその教室員は大変であったと思われる。会期は2日間に短縮され,ウイルス性胃腸炎のセッションでは6人が各30分ずつ口演する形になった。

 米国側は最初にHarry B Greenberg (Stanford)がロタウイルスのマウス感染モデルでのウイルス血症について口演した。宿主と同種であるマウスロタウイルスEC株と異種であるRRV株を感染させると,ともに感染2日後から,ウイルス血症が起こるとともに,腸間膜リンパ節,肺,肝,腎,脾,脳などの組織にウイルスの増殖が検出されることをmRNAとゲノムRNAを定量的に区別するQRT-PCRで証明した。各臓器でのロタウイルスの増殖量は腸管のそれに比べるとはるかに少ないが,腸間膜リンパ節で高いレベルの増殖が見られた。腸間膜リンパ節でのロタウイルス抗原陽性細胞の由来についてはT細胞ではないとしたが,詳しい言及は避けた。

 また,粘膜における防御免疫に関してはIgAが重要な役割を果たすが,IgA産生B細胞が粘膜免疫の誘導組織であるパイエル板から実効組織である粘膜固有層に移動してくるホーミングのメカニズムは複雑で十分解明されていない。 ホーミングレセプターであるインテグリン(α4β7)やケモカイン(CCL25,CCL28)とこれらのレセプターであるCCR9やCCR10がB細胞のホーミングに重要な役割を果たしている。乳のみマウスでも成熟マウスと同様,ロタウイルス感染によりB細胞の抗原特異的および抗原非特異的活性化が起こる。感染マウスでは腸間膜リンパ節における活性化B細胞の増加の他に,粘膜固有層でIgAを産生する形質芽細胞plasmablastsが,総量でもロタウイルス特異的なもので見ても,増加していることを見出した。このようなIgA産生形質芽細胞は粘膜固有層で増殖しているのではなく,脾や腸間膜リンパ節で増殖したものがケモカイン(CCL25,CCL28)の助けにより,実効組織である粘膜固有層に動員されてくることを証明した。

 次に,Mary K Estes (Baylor)は,ボランティア感染実験から組織血液抗原型と分泌型か非分泌型の違いがノーウォークウイルス感染に対する感受性の大きな決定因子になっているが,組織血液抗原を発現している培養細胞でもウイルスの増殖は起こらず,これらが増殖系の確立のための十分条件ではないことを示した。そこでワクシニアウイルスベクターを使いノーウォークウイルスRNAを細胞内に導入したところ,ウイルスRNAの複製と複製されたRNAのウイルス粒子へのパッケージングが起こった。このことから感染性RNA作製が可能であり,培養細胞でもウイルスRNAの複製が起こることが示唆された。ノーウォークウイルスのトランスフェクション系の確立に向けての大きな一歩であると思われる。

  Albert Z Kapikian (NIH)がRotashieldの後継としてのウシロタウイルスUK株を親株とする6価組換え体ワクチン(HRV-BRV(UK) ワクチン)の実用化の現状について報告した。HRV-BRV(UK) ワクチンはウシロタウイルスUK株(G6,P6[5])のVP7遺伝子分節をヒトロタウイルスD株(G1),DS-1株(G2),P株(G3),ST-3株(G4),1290株(G8),AU32株(G9)のVP7遺伝子分節で置き換えた6価組換え体ワクチンである。KapikianはVP7に対する血清型特異的ウイルス中和抗体が誘導されることが,ワクチンが効力を発揮するのに重要であるとの基本的な考えに立っている。そのためアフリカに多いG8と最近増加傾向にあり,今や世界的な頻度でも第3番目に浮上しつつあるG9の2つの血清型をカバーする必要性が強調された。Rotashieldと比較すると免疫原性はほぼ同等である一方,HRV-BRV(UK) ワクチンは発熱の頻度が少なく,野外試験の結果重症下痢症の発生を高率に防御することが示されている。また,腸重積症の発生の多い生後3〜9ヶ月を避けるため,生後2ヶ月以内とくに新生児期に初回免疫を行うこと,接種機会を逸したものにキャッチアップ接種をすべきでないことを主張した。

 日本側からは,中込治(長崎大)がロタウイルスの株の違いと下痢症の重症度は関係がないという報告,Tung Gia Phan(東大)がわが国におけるノロウイルスのゲノタイプとくにリコンビナント株について,さらに石埜正穂(札幌医大)がバングラデシュで見出された,電気泳動パターンと塩基配列がADRV-Nに酷似した株について報告した。詳細は省略する。


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