話題提供

カリシウイルスの分類について


片山 和彦 (国立感染症研究所 ウイルス第2部)


 カリシウイルスファミリーは、Norovirus(旧Norwalk-like viruses; NLV)、Sapovirus(旧Sapporo-like viruses; SLV)、LagovirusVesivirus、これら4種類のウイルス属で構成されている。Lagovirus, Vesivirusは動物に感染するウイルスとして、NorovirusSapovirusはヒトに感染するウイルスとして知られている。一見すっきりと見えるカリシウイルスファミリーの分類だが実は、Norovirus、Sapovirusの正式属名が2002年9月にICTVによって正式に決定されるまで、混沌とした様相を呈していた。

 発見当初より、NorovirusSapovirusは形態学的特徴や発見された地名に基づいた命名によりSRSV、Norwalk virus、Norwalk-like viruses、Human calicivirus、Sapporovirus、Sapporo-like virusesなど様々な名前で呼称されてきた。また、E型肝炎ウイルス(HEV)もカリシウイルスに属すると考えられていた。90年代に入り、複数のカリシウイルスのゲノム塩基配列が解析され、分子系統解析の手法に基づいたカリシウイルスの分類がなされるようになり、HEVもカリシウイルスファミリーから除外され、現在の形に至った。ゲノム解析の遅れていたNorovirusは、現在、複数株のゲノム全長塩基配列を用いた詳細な解析の結果、構造蛋白質領域を用いた分子系統解析法が確立され疫学調査が推進されつつある。Sapovirusもゲノム塩基配列解析が遅れていたが、Noroviruと同様のアプローチが試みられている。しかし、ここ数年、NorovirusSapovirusに類似したウイルスゲノムがウシやブタから検出されたことから、カリシウイルスの分類は、再び混迷の様相を呈しつつあるように思える。。

 今後、カリシウイルスの分子系統解析および分類には、人獣共通感染症の可能性を念頭に置いた裾野の広い分子疫学研究が必要だと考えられる。そのような調査を実現するためには、塩基配列を入手した研究者自らが分子系統解析法を理解して結果を解析し、新たな分類法を構築する必要がある。本演題では、カリシウイルス分類の歴史的な背景を概説すると共に、今後のカリシウイルス分類法について考えていきたい。 ウイルス性下痢症という疾患名は、感染症法対象疾患には含まれておらず、感染症発生動向調査からこれを推し量ろうとすれば、感染性胃腸炎という症候名による診断からデーターを得るしかない。感染性胃腸炎とは、一般に多種多様の病原体の感染を原因とする共通の症状、すなわち発熱、下痢、悪心、嘔吐、腹痛などを現す一連の疾患をまとめた症候群的診断名である。病因となるものは、ウイルス(SRSVなどのノーウオーク様ウイルス、ロタウイルス、腸管アデノウイルスなど)、細菌(腸炎ビブリオ、病原性大腸菌、サルモネラ、カンピロバクターなど)、寄生虫(クリプトスポリジウム、アメーバ、ランブル鞭毛虫など)など、多岐にわたっている。


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