I:地衛研の特徴
本邦における地方衛生研究所(地衛研)は47都道府県と23指定都市のなかに現在74機関存在している。地衛研には「調査研究」、「試験検査」、「研修・指導」そして「公衆衛生情報の収集・解析・提供」の4つの基本的業務を持ち、全国地衛研と連携した研究、情報交換を行なっている。
感染症対策に限ればその活動の特徴は
a) 本邦での実際の感染動向の直接把握ができること。
b) 行政や地域社会に提言ができること。
c) 全国連携による活発な研究活動が展開でき得ること。
と言えるが、その反面
d) 研究補助金の確保が困難なこと。
などの点が地衛研にとっては大きな難点といえる。これらの諸条件の中で、これまで川本尋義博士(現 岐阜県生物産業技術研究所)を中心とした平成元年(1988年)以来の‘食品媒介ウイルス性胃腸炎集団発生実態調査研究班'、‘全国ウイルス性食中毒研究班'の活動は眼を見張るものがあり、今後のウイルス性下痢症研究に大きな礎を築いたといえる。
II:ウイルス性下痢症の現状と特徴
全国の感染症動向からみると、食中毒としての感染性胃腸炎は常に上位を占め、中でも非細菌性下痢症の事例報告は全体の約20%と多数みられる。これらの事例報告や研究の論点は常に診断方法と感染経路の推定に絞られてくる。
診断方法はその変遷史を見ると、電子顕微鏡・免疫電顕による検鏡、ELISA法やRPHA法といった診断方法やその開発の試み、さらにPCR法やRT-PCR法による診断へと発展してきた。しかし、絶えず特異性、感度、経済性などのの問題点についても論議され続けてきた。一方、感染経路をみると、ヒトー食物の感染経路のみならずヒトーヒト経路もみられており、また最近では予期せぬ推定原因食品やエアゾルまでもが挙げられてきた。
III:今後の展望
今後、ウイルス性下痢症分野にとって、診断方法の効率化を図ることが第一義に求められる。共通プライマーの検索と設計や共通抗原決定基を認識するモノクローナル抗体を用いたELISA法の開発など、なすべきことは多い。またこれらの結果、どれだけ予防医学に貢献できるかについても検討し評価しなければならない。
さらに、全国地衛研の連携によるサーベイランス活動は、地衛研特有の財産であり、活動の持続と精度化に努めなければならない。