1.カリシウイルス科ウイルス、特にSRSVの呼称をめぐって

モデュレイター:
中込治(秋田大学医学部)
コメンテイター:
中田修二(札幌医科大学)
大石功(大阪府公衆衛生研究所)
栄賢司(愛知県衛生研究所)
大瀬戸光明(愛媛県衛生環境研究所)


 カリシウイルス科の新しい国際分類は、すでに昨年の本研究会で田中智之氏により紹介されているとおり、hepatitis E virusがカリシウイルス科より除外され、残りのウイルスが、Lagovirus属、 Norwalk-like Viruses (NLVs)属、 Sapporo-like Viriuses (SLVs)属、 Vesivirus属の4属に分類されることになった。このことは、1999年8月にオーストラリアのシドニー開かれた国際ウイルス学会議のtaxonomyの公式セッションで報告された。しかし、NLVsおよびSLVsは正式名称ではなく、暫定的な名称である。米国NIHのK.Y. Green女史を座長とするカリシウイルス科ウイルスのtaxonomy study group(我国では現在札幌医大の中田修二氏がmemberである)ではこれらの正式名称について統一見解にいたらなかったことも報告された。この課題は今後、新たにstudy groupの座長となるオランダのM. Koopman女史に引き継がれることになった。

 国際ウイルス学会議初日のカリシ・アストロウイルスのワークショップ終了後に、非公式のオープンフォーラムの場が設けられ、Green女史によりカリシウイルス科ウイルスのtaxonomy study groupの最終勧告案とその根拠が詳細に説明されるとともに、特に、NLVsおよびSLVs属の名称の土壇場での決着(NLV属をNorwalkivirus属、SLVs 属をSapporivirus属とする)が試みられたが、特にイギリスグループの強い反対により、コンセンサスを得ることはできなかった。このオープンフォーラムには、それぞれのウイルス属の発見者であるA.Z. Kapikian氏および千葉峻三氏(両氏は発言を遠慮されたようであった)、また、ICTVのexecutive memberであるM.K. Estes女史(彼女はICTVの立場からの発言をされ、Green女史の最終勧告案を強く支持されたが、NLVsおよびSLVs属の名称については中立的態度を示した)の参加もうることができた貴重な機会であったが、本研究会でもっとも関心の高いNLVsおよびSLVs属の名称について合意を得ることができなかったのはきわめて残念であった。

 さて、SRSVという呼称についてであるが、この会議での雰囲気も、また、すでに最近の英文文献にも顕著に表れているように、ノ?ウォ?クグループウイルス、SRSVおよびカリシウイルスと呼ばれてきた一群のウイルスを、(電顕での形態学やIEMでの反応を顧慮することなく)そのgenotypeのみをもとにNLVs属およびSLVs属に分離すること自体には強固な国際的コンセンサスが成立しているものと考えてよいと思われる。また、SRSVという呼称は、特に電顕をスタートにウイルスを同定していく一過程での便宜的名称として使われうるが、ウイルスのきちんとした同定が当然の前提となる学術論文には、必然的に使用されることはなくなるものと考えられる。同じことは、電顕で形態学的にカリシウイルスが見い出された場合にもあてはまることと言える。

  モデュレイターである中込は、強い反対意見を展開されたイギリスのD. Cubitt氏 とI. Clarke氏、NLVsおよびSLVs属の分類の分子系統樹の上からの根拠を報告した米国のD. Matson氏、さらに座長のGreen女史とそれぞれ個別に意見を交換したので、このことについても口頭で簡単に報告する。彼等にとって全く不透明なのは、非常に多くの研究者を抱え、また、そのレベルも高い、我国の研究者のコンセンサスはいかなるものか、また、taxonomy study groupのmemberである中田氏の見解は我国の研究者によって支持されている(あるいは中田氏の見解は我国の研究者の意思を反映しているの)かということの指摘を受けたが、当然の疑問と思われる。本研究会でのこのSRSVの呼称をめぐってのround-table discussionの場を設けた意図もここにある。もちろん、我国固有の、しかも公衆衛生上非常に重要な食品衛生法の問題もある。各コメンテイターには、それぞれの立場を代表する第一人者を選定させていただいたので、大局観にたった見解を簡潔に提示していただき、活発な議論をしていただきたい。

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