【研究成果】炎症性腸疾患患者における COVID-19 重症化因子を解明
【研究成果】炎症性腸疾患患者における COVID-19 重症化因子を解明
肥満や脳血管疾患の既往歴が重症化のトリガー
~日本人炎症性腸疾患患者におけるCOVID-19感染者の多施設共同レジストリ研究 (J-COSMOS)の最終解析~
<研究の概要>
札幌医科大学医学部消化器内科学講座 教授・仲瀬裕志を代表とする研究グループ(日本人炎症性腸疾患患者におけるCOVID-19感染者の多施設共同レジストリ研究グループ:J-COSMOS group)は、炎症性腸疾患(IBD)患者における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化因子が、BMI高値(肥満)と脳血管疾患の既往歴であること、IBDに対する抗TNFα抗体またはチオプリンの使用はCOVID-19の重症化リスクが少ないことを明らかにしました。また、本レジストリにおいてCOVID-19による死亡者はいませんでした。この研究は、厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班)におけるCOVID-19 JAPN IBD Taskforceの事業として、77の医療施設が参加して行われた研究で、その研究成果は2023年7月31日付に国際科学誌Gastro Hep Advancesのオンライン版で掲載されました。
Hiroshi Nakase, Yuki Hayashi, Yoshihiro Yokoyama, Takayuki Matsumoto, Minoru Matsuura, Hideki Iijima, Katsuyoshi Matsuoka, Naoki Ohmiya, Shunji Ishihara, Fumihito Hirai, Daiki Abukawa, Tadakazu Hisamatsu, J-COSMOS group.
Final analysis of COVID-19 patients with inflammatory bowel disease in Japan (J-COSMOS): a multicenter registry cohort study
(日本人炎症性腸疾患患者におけるCOVID-19感染者の多施設共同レジストリ研究(J-COSMOS)の最終解析)
Gastro Hep Advances In press. DOI: 10.1016/j.gastha.2023.07.017
https://www.ghadvances.org/article/S2772-5723(23)00117-6/fulltext
<研究のポイント>
・参加登録された医療機関に通院中または入院した炎症性腸疾患(IBD)の患者さんで、かつCOVID-19に罹患した方を対象に、
IBDの活動性、IBDの治療薬、COVID-19の重症度などについて調査しました。
IBDの活動性、IBDの治療薬、COVID-19の重症度などについて調査しました。
・前回の中間解析(2021年10月31日)から最終解析(2022年12月31日)までに登録患者さんは1121人増加し(6.1倍)、
最終的に1308人の患者さんが解析されました。同時期の日本人のCOVID-19発症件数は14.4倍に増加していることから、
IBD患者さんが自分の免疫が弱いことを自覚し,感染予防を徹底していることへの表れと考えています。
最終的に1308人の患者さんが解析されました。同時期の日本人のCOVID-19発症件数は14.4倍に増加していることから、
IBD患者さんが自分の免疫が弱いことを自覚し,感染予防を徹底していることへの表れと考えています。
・登録患者のうちCOVID-19が重症化した患者さんは1.6%で(WHO重症度分類),残りの98.4%は非重症型でした(厚生労
働省の定義する重症度分類における中等症Ⅱと重症は.どちらもWHO重症度分類の重症に相当する).また,登録された患
者さんでCOVID-19による死亡者はいませんでした。
働省の定義する重症度分類における中等症Ⅱと重症は.どちらもWHO重症度分類の重症に相当する).また,登録された患
者さんでCOVID-19による死亡者はいませんでした。
・COVID-19の発症によって,IBDの病状が悪化することは少ないこと,また一時的にIBDが悪化する場合もCOVID-19の治癒
後に元のIBDの病状まで改善することが多いことが判明しました。
後に元のIBDの病状まで改善することが多いことが判明しました。
・統計学的解析により、高BMI(肥満)、脳血管疾患の既往歴があることがIBD患者におけるCOVID-19の独立した重症化因子
であること、IBDに対する抗TNFα抗体またはチオプリンの使用はCOVID-19の重症化リスクが少ないことがわかりました。
であること、IBDに対する抗TNFα抗体またはチオプリンの使用はCOVID-19の重症化リスクが少ないことがわかりました。
<研究の背景、実施期間など>
炎症性腸疾患(IBD)は腸に慢性的な炎症を繰り返す疾患で、潰瘍性大腸炎とクローン病の2つの特定難病に大別されます。本邦においてIBD患者は増加しており、2020年に約22万人の日本人が罹患していると推定されています。IBD患者は免疫を抑える治療薬を常用することが多いため、IBD患者は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患しやすい可能性や、重症化しやすい可能性が危惧されていました。そのため、日本人のIBD患者さんがCOVID-19を発症した際の臨床的特徴を把握し、今後の診断や治療介入に生かすために、本研究は計画されました。本研究は2020年6月から2022年12月までに、レジストリに登録された患者さんを対象に実施されました。
<研究の意義、これからの可能性、今後への期待、今後の展開など>
本研究では、BMI高値(肥満)と脳血管疾患の既往歴が、COVID-19を悪化させるリスクであることがわかりました。また中間解析では統計学的にCOVID-19重症化リスクと考えられていたステロイド投与は、最終解析では有意差を示しませんでした。一方で、ステロイド以外のIBDにおける免疫抑制治療薬(チオプリン製剤,抗TNF-α抗体製剤)は、むしろCOVID-19を重症化させるリスクが少ないことがわかりました。
COVID-19に関する社会的な制限は緩和されましたが、COVID-19の流行や新たな変異ウイルスの発生といったCOVID-19に関する医学的・公衆衛生的な問題は未だ続いています。With コロナ、Post コロナ時代におけるIBD診療(検査や治療)のあり方について、当講座ではさらなる研究を続けています。
<本件に関するお問い合わせ先>
札幌医科大学医学部消化器内科学講座 教授 仲瀬 裕志
TEL:011-611-2111,FAX:011-611-2282 ,E-メール:hiropynakase@gmail.com
杏林大学医学部消化器内科学 教授 久松理一(厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業
「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」 研究代表者)
TEL:0422-47-5511,FAX:0422-71-5912 ,E-メール:thisamatsu@ks.kyorin-u.ac.jp
札幌医科大学医学部消化器内科学講座内 J-COSMOS事務局 (日本人炎症性腸疾患患者におけるCOVID-19感染者の多施設共同レジストリ研究事務局) 林 優希
TEL:011-611-2111,FAX:011-611-2282 ,E-メール:japan.ibd.covid19@gmail.com