巻  頭  言


                      会長  柴田崇行


                         資本主簾社会と放射線機器


 今年は1895年レントゲン博士がエックス線を発見してから100年目を迎える記念すべき年に当たる。特にエックス線が発見されてから時を待たずに医療の場に取り入れられた。当時の聴打診により体内の状態を想定する手法以外になかったと思われる時代に、エックス線を用いて人体の内部構造が、エックス線の吸収差により一枚のフィルム(乾板)に写し出されたことは画期的な出来事だったに違いない。

 その手法が100年経った今も脈々と生き続けている。この100年の間に病める人々のために計り知れない恩恵と福音をもたらした。その延長線上で20年程前よりCT,CR,DSA,US,PET等、続々と新しい画像診断手法が医療の現場に登場するようになった。

 現在では画像診断なくして医療はありえないとまで言われるようになって来ている。

 ここでレントゲン博士の偉大な業績に改めて感謝の意を捧げたい。

 さて、一方、私共はこのエックス線発見ということに端を発しこれに関わり診療放射線技師として、研究者として、教育者として放射線技術学会北海道部会の会員を構成している。

 今回はエックス線発見100年という節目の年に当たり、私自身30数年放射線技師としての経験から、日頃我々を取り巻く放射線装置、関連機器、機材についての最近の動向について日頃より感じている所を率直に述べさせて戴き、多くのご批判を戴ければ幸いである。

 まず我々の暮らしている日本は当然ながら資本主義社会なのである。資本主義社会における消費者(ユーザー)の立場は数多くある商品の中から、自分の所にあった性能、便利性、耐久性、形状、ランニングコスト購入価額、その他諸々の諸条件を検討し、商品を自由に選択する訳である。時には一連の装置の中でA社、B社を組み合わせたいとか色々な希望を生じてくることは当然のことである。

 先日、経済評論家堺屋太一氏の講演を聞く機会を得た。その講演の内容の一部で牛肉の自由化の問題に触れ「アメリカは何が何でも牛肉を買ってくれとは言っていないのだ、日本での規制を緩和して日本のマーケットでアメリカ産の牛肉をならべ、消費者である日本の国民が自由に商品を選択できる道を与えるのが目的なのだ。資本主義社会というのは、販売する側が消費者のニーズにあった商品を作り、消費者に多くの選択枝をあたえることこそが原則なのである。」と講演されていた。

 ここで、我々の放射線関連機器、機材に話しを戻そう、まず古くから疑問を感じ現在も一向に実現していないのが、透視台をはじめとしたカセッテレスのしシーブマガジンである各社形状が違っているため暗室にてフィーダーに入れなければならない、完全明室で作業するには自動現像機に取りつけるアダプターを数種類取り揃えなければならない。そのアダプターは勿論ユーザー負担である。各社レシーブマガジンを統一してくれたら経費と作業量の節減につながるのだが。

 次のCT,MR等の比較的新しいモダリティーの装置では本当に親切すぎると感じるくらい、数多〈の画像処理、画像解析の機能を搭載した製品が世に出てくる、しかし実際にはその数割(施設によっても違うだろうけれど)しか現場では使用しないの現状であろう、フルパッケージのソフトを含んだ価額でユーザーは購入しているのが実態である。これからは、ユーザーの希望する機能のみを入れるような、木目の細かいサービスが出来ないものなのか疑問を感じる。

 次に、これらの装置からアウトプットされるデータに関してであるが、殆どがレーザーイメージャーにつないでハードコピーしている。レーザーイメージャーの最大利点はデジタル信号にある。しかし現状では装置からの信号はビデオ信号を出しレーザーイメージャーで再度デジタル変換するという無駄と、せっかくの画質を落としてしまう手法を用いている装置が多い、装置では勿論デジタルで画像構成しているのだからその信号を出したら良いと恩うのだが、もしどうしてもデジタル信号となるとインターフェイスをかませなければならない、このインターフェイスの代金はユーザー負担となるのである。各社(世界的にも)の出力データが統一化されていない現在当然と言えば当然であるが、いかにもユーザーそっちのけの不可解なことである。

 レーザーイメージャーの話が出たので、これについてであるが、例えばA社のイメージャーにはA社のフィルムしか使えないというイメージャーが殆どである。イメージャーの選択枝はあってもフィルムの選択枝は完全に奪われてしまった。  最近の自動現像機についても然りで、現像、定着液がカートリッジタイプになり、A社の自動現像機を選択したら、もはや処理薬品の選択枝はこれまた完全に奪われてしまう。

 以前のように各社のフィルムと各社の現像液との組み合わせの性能比較の実験等は不可能な状態になってしまった。その他の例も数多くあるが、紙面の関係で省略するが、これまで書いてきたように、放射線関連機器、機材はこの十数年間の間にメーカー主導型の商品化が進められている。

 資本主義社会の大原則であるユーザーの自由な選択枝という点からみれば、いささか逆行のクローズドな方向に行ってはしないか、このような疑問を感じているのは私だけなのだろうか、エックス線発見100年という節目の年に晋段感じている所を率直に述べさせて戴いた。

 皆様からのご批判を戴ければ幸いである。



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					日本放射線技術学会  北海道部会