FCR(Fuji Computed Radiography)7501 立位撮影装置を用いた
胸部側面撮影における補助具の改良

Improvement of the Supplementary Tool for Chest Lateral Radiography
with FCR7501 Image Reader (CR‐IR323)

後藤啓司  成田重信  横山英辰 

北大医学部附属病院放射線部


Summary

The supplementary tool used for taking a lateral view of the chest by a FCR 7501 Image Reader(CR‐IR) requires some improvements. Its 'p' shape makes height adjustment for each patient difficult, and it has no fittings to fix it in a horizontal direction. When using this tool, there is a risk of the patient falling while the picture is being taken. Therefore, we designed a new patient-oriented tool.
The results of tests using our new tool showed that the apex of the lung could be depicted more clearly on X-ray films, and that tortion of the patient's body was also greatly redused.

Key words: Supplementary tool, FCR 7501, apex of the lung, tortion of the patient's body

緒 言

従来のFCR7501撮影装置(CR‐IR323)の補助具(オプション 型式:PS7501‐P)は, Fig. 1に示すようにP型をしており, 左端に棒を回転させる支柱があった. このためLR方向胸部側面撮影の際には適すが, RL方向の撮影には, 補助具は患者の体位に対して平行にならないため, 適切な側面のポジショニングに時間を要していた. そして, LR方向の撮影でも回転方向のロックがないために, 患者によっては撮影の際に転倒等の危険性もあった. また, この補助具は撮影部と直接固定されているため, 個々の患者に応じて高さを変えることは困難であった.
我々は, 便宜的に撮影部の上縁より約45cmの高さにP型の下段の握りがくるように固定して使用していた. このため, この高さの設定に制限され, 健常者でも腕を十分に挙上できないことがあった. また, 腹部立位撮影の際は撮影部上縁を患者の腋窩レベル程度まで下げるため, 未収納のP型補助具が患者の頭にぶつかるという危険性をはらんでいた. そのうえ, 肩, 腕の痛み, 手術直後などで腕の挙上ができない患者に対しては全く使用できなかった. 今回, 我々はFCR7501において, これらの問題点を解決するために, 上記P型補助具を改良し新補助具を設計し導入するに至った1). これを実際に使用し得られた胸部側面写真について臨床評価を行ったのであわせて報告する.

方 法

1. 新補助具の製作
我々は, 胸部側面の新補助具製作にあたり, を設計思想として, Fig. 2に示すような構想図を作成した. 腕を真上に挙上できる人から, 挙上困難な人まで対応できるように, アーチ状のものに握り棒がついた形状になっている. 握り棒の高さは3段階で左右対称に合計6本ついている. 握る棒の位置や長さ, アーチの半径, 又, 撮影部表面からの距離などは, 子どもから大人まで, 患者の体型・腕の長さに対応できるように考慮した. これを基にして, 製作は富士メディカルシステム(株)に依頼した.

2. 肺尖部の視覚評価
導入前後において, 成人男女50名ずつの胸部側面写真を任意に選択し, 第3胸椎前縁中点と胸骨上縁を結ぶ線より上部の肺尖部を観察部位とした(Fig. 3). 診療放射線技師3人の主観評価により, その部分の見え方を5段階評価した.
�:excellent, �:good, �:fair, �:poor, �:very poorとした.

3. 左右肋骨の変位
導入前後において, 胸部側面写真上での左右肋骨の変位に有意差があるかどうかを検討した. 画像は, �-2. と同様に成人男女50名ずつの写真を用いた. 肋骨の変位は, 第8胸椎の左右肋骨後縁の水平方向の変位を写真上で測定した(Fig. 4).


結 果

1. 新補助具について
Fig. 5に新補助具を施したFCR7501の概観図を示す. アーチ全体はバランスをつけることによりスムーズに上下し, また, 容易に固定できる構造である. 撮影の際はまず握り棒を3つの高さの中から選択し握ってもらう. 次に, その状態のままアーチ全体を上にずらしながら, 個々の腕の長さ・体の状態に応じて最大可動範囲まで挙上させる. 患者は低い位置から肩の位置を動かすことなく, スムーズに挙上する事が可能である. Fig. 6に安全機構の部分写真を示す. これは, ワンタッチストッパーとバランス機構のワイヤーを示している(矢印はワイヤーを示す). 二重の安全性を確保することにより, 技師がポジショニングの際に誤って手を放してもアーチ部分が落下しないように配慮している.

2. 導入前後の肺尖部視覚評価
導入前後の肺尖部の視覚評価の結果をFig. 7に示す. グラフより導入前のピークは3から4, 導入後のピークは4で, 全体の形状からも導入後の方が肺尖部の描出能に優れていた.

3. 導入前後の左右肋骨の変位
導入前後の左右肋骨の変位を調べた結果を, Fig. 8に示す. この表より, 導入後の方が測定値の標準偏差の値が小さくバラツキが少なかった.


考 察

胸部側面撮影において両上肢を最大限に挙上させることは重要である. 新補助具導入前は, ビルトインタイプP型補助具を撮影時に使用していた. 導入前後の同一患者の胸部側面写真をFig. 9に示す. 左に示す最大挙上位では, 矢印の病巣が認識できるが, 右に示す半挙上位では, 認識できない. この原因としては, 上腕の軟部組織が重なるため, X線吸収が多くなり, コントラストを低下させたり, 上腕部が入ることにより, CRの先読みヒストグラムが変化して, 画質を変えていることなどが考えられる2). したがって, CRで胸部側面を撮影する際は, 特に, 腕の挙上を最大可動範囲で行う必要があると考える. 今回導入したアーチ型補助具により患者に合わせた挙上が容易に導かれた結果として, 肺尖部の観察がしやすくなったと考える.

次に, 左右肋骨の変位について述べる. 体の捻れは, 補助具の改良だけで改善したとは言いきれない. ただ, 以前の補助具がそれだけ安定していなかったとは言えるであろう. 今回は, 正確な側面像のメルクマールとして第8胸椎の左右肋骨後縁の水平方向(Fig. 4参照)のずれを採用した. しかし, 仮に健常者がフィルム面に対して真側面に, 体厚の中心にフィルムの中心がくるようにして撮影しても, ずれは0とはならないはずである(X線はファンビーム状に放射されるため). また, 体格の差もずれに大きな影響を与える. したがって, 今回, �-3. で、ずれの平均値を一応求めたがあくまでも参考値にすぎないことを明記しておく.

新補助具の使用法及び機構は既に述べた. 我々技師にとって, より良い写真を提供することも大切だが, 患者に対して安全な状態で撮影するということも重要なことである. 新補助具において, 患者が側面になり補助棒につかまるだけで, ポジショニングがほぼ終了してしまうという点は, 今迄の補助具ではなかったことである. 特に, 手術後間もない患者や容体の悪い患者に対して, 胸部側面撮影する際に大きな威力を発揮する. ポジショニングの時間が短縮し, 固定性がしっかりしているためである. そのため, 我々技師が感じていた心理的重圧(患者が撮影中に転倒するのではないか……)を緩和すると共に安全で再現性の高い日常診療を可能とした.


結 論

今回製作した補助具により, 患者の腕をスムーズに最大挙上位に持っていくことが可能となった. また, ポジショニングも容易となり, 安全かつ正確で診断し易い側面像を提供することが出来るようになった.

文 献

  1. 田中秀典, 浅津 輝, 大上和宏 他:胸腹部撮影用フィルムチェンジャーにおける側面撮影用ハンドグリップの試作, 日放技学誌, 44(8)1135, (1988)
  2. 中島延淑, 武尾英哉, 石田正光 他:FCRシステムの濃度/画像レンジ自動設定機能(EDR), 富士メディカルレビュー No. 2, 34‐48, (1993)

要 旨

FCR7501撮影装置のつかまり補助具(胸部側面撮影時に適用)の使用に際して, 我々は, いくつかの問題を抱えていた. その補助具は, P型の形状をしていた. それはあらゆる患者に応じて速やかに高さを変えることが出来なかった. 更には水平方向の固定が出来なかった. したがって, 我々は撮影中に患者が転倒するのではないかと常に心配していた. これらの問題を解決するために, 我々は独自に新しい補助具を設計し導入するに至った. 導入後は, 写真上において肺尖部の観察がしやすくなり体の捻れが減少した.


抜刷請求先
〒060 札幌市北区北14条西5丁目
北大医学部附属病院放射線部
後藤啓司

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日本放射線技術学会 北海道部会