研究紹介

癌細胞特異的抗体薬の開発(山口)

肺がん、膵がん、卵巣がんなどをはじめとする難治性癌の治療の鍵は、「腫瘍に対しての選択的な治療薬剤の導入」を可能とする効果的な方法を編み出すことが重要である。標的薬剤の投与は、多くの薬剤が標的(腫瘍)に届くため、薬剤のロスが少なく効果的な治療、低投与量での治療、また、投与量の減少による副作用の軽減などが期待できる。

私たちは、抗体のFc部分に結合する黄色ブドウ球菌プロテインAのZ33モチーフを含むファイバー変異型Adv-FZ33アデノウイルスを用いて、ウイルス感染効率が高い標的分子候補の系統的探索を進めてきた。膵がん、肺がん、前立腺がん、子宮がん、メラノーマ、口腔がんなどの細胞株をマウスに免疫し、抗体ライブラリーから、Adv-FZ33を用いたスクリーニングでウイルスの感染効率が高い抗体を選択した。このスクリーニングで603個の抗体が得られ、そのうち422個の抗体の抗原同定を終え、重複を含めると63個の抗原が同定された(表1)。この中には、CD9, CD13, CD46, CD54, CD55, CD81, CD155, SCARB1などのウイルス受容体、悪性リンパ腫の治療薬(リツキサン)であるCD20、口腔がん、食道がん、胃がん、非小細胞肺がんなどの治療薬として使われているEGFR、あるいはIGF1R, EpCAM, CD44, CD71, CA12, MCSP, CD146, CD228, IL13Rα2a, PaP2a, CEACAM, TROP2などの腫瘍標的候補として開発途上のもの、あるいは注目される分子が高い比率で含まれていた。この理由は、アデノウイルス感染の好適な条件と腫瘍治療に用いる抗体の標的分子の好適な条件が共通していたためと考えられた。

表1

抗体薬は、抗体単独での使用するものと、抗体に放射性同位元素、抗がん剤などの薬剤あるいは天然物であるジフテリア毒素や緑膿菌の細胞外毒素などを結合した結合型が存在する。この中で私たちは速効性が高く、即戦力になると考えられる結合型の抗体薬に着目した。また、結合型の抗体薬は抗体薬物結合体(ADC)として新たな潮流として大きな期待を集めている。そこで、私たちはイミュノトキシン(iTox)を簡便に作製できる方法(EZiTox)を考案し開発した。このEZiToxは、図1Aに示すようにジフテリア毒素(DT)とプロテインGのC領域を3個(3C)を備えた融合タンパク質(DT3C)を抗体のFc部分に結合(図1A)したもので安定である。抗体に結合したDT3Cは細胞内へ取り込まれ、タンパク合成阻害により細胞死を誘導する(図1B)。このDT3Cを用いた抗体スクリーニングでiTox活性が高い標的分子候補の系統的探索を進めている。

図1