札幌医科大学卒業式・大学院修了式 秋野 豊明 学長の式辞 |
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<式 辞>
本日ここに、平成12年度札幌医科大学卒業式並びに大学院修了式を挙行するに当たり、大学を代表して、式辞を申し上げます。
本日の卒業式には、道議会開催中の非常にご多用中のところ、北海道知事 堀 達也様、北海道議会議長 湯佐 利夫様にご臨席を賜り、また、札幌医科大学医学部同窓会長 中添 宏様をはじめ、ご来賓の皆様及びご家族の皆様にご参会をいただき、厚く御礼申し上げます。
卒業生の諸君。ご卒業まことにおめでとうございます。本日めでたく学士の学位を得られました諸君、また優れた研究成果を上げて大学院の課程を修了し、博士あるいは修士の学位を得られました諸君に、大学挙げて心からお祝いを申し上げます。諸君の人生の刻みが一つ進んだ証として、学位記を授与し、新しい世界への門出を祝うことができますことは、大いなる喜びであります。またこの日まで、我がこととして、諸君の学業を経済的にも精神的にも支え続けてこられたご両親をはじめ、ご家族の皆様の喜びはいかばかりかと存じます。心からお祝い申し上げます。
今年の卒業式で学部卒業生の諸君が手にした卒業証書・学位記は、和文学位記とその公式英訳の英文学位記を一組とする新しい様式のものです。諸君は、本学が21世紀に最初に送り出す卒業生であり、また我が札幌医科大学が50年の歴史から新たな半世紀へ旅立つ節目の年の卒業生となります。21世紀は国際的な協調や連携が進み、諸君の活躍の場はグローバルな規模になるであろうと考え、またそれを期待し、諸君の先輩が受けた卒業証書と様式を変えることにしたのであります。札幌医科大学の新時代を象徴する新しい学位記を手にする諸君が、国際化の進む新世紀で大きく羽ばたくことを願っております。
札幌医科大学は、昭和25年に北海道立の医科大学として創設されました。創設から11年にわたって大学の基礎を築かれた初代学長の大野精七先生は、大学の創設時にアメリカ医学を積極的に取り入れ、新しいタイプのユニークな医科大学を作り上げたのであります。全国に先駆けて、外科を一般外科、胸部外科、脳外科、整形外科に専門分科し、麻酔科を創設するなど最先端の医療を北の大地、北海道で行なう医科大学を目指したのです。また2代目学長の中川 諭先生は、病人の居るところへはどこへでも行き、どのような僻地で、設備のない所へ行っても、聴診器一本で診断出来る技術を磨けと学生を教育されました。
このようにして、本学の創世期に、「新しい医学を攻究する進取の精神」と「北海道の地域医療のために尽くす開拓の気風」という札幌医科大学の建学の精神が培われていったのであります。その後、この建学の精神は校風として根付き、これを指針として、札幌医科大学は北海道における最先端の医学と医療を担い、地域医療に貢献する優秀な人材を多数送り出してまいりました。そして現在、医学部、衛生短期大学部、保健医療学部の全卒業生の大半は、北海道各地に根をおろし、最新の医学的知識に基づいて、地域医療や保健活動の第一線で活躍しています。このような諸君の先輩の地域最前線における活躍によって、札幌医科大学は道民の信頼を得るにいたっているのです。それだけに、新鋭の卒業生諸君へ寄せる道民の期待は非常に大きいのであります。この大学を選んで、医学あるいは保健医療学を学んだ諸君は、卒業に当たって、改めてこの建学の精神を深く心に刻み、新しい門出についていただきたいと思うのであります。
諸君が社会へ旅立つ、この21世紀初頭の我が国の医学と医療は、現在、大きな転換期に差しかかっております。昨年、ヒト・ゲノムの構造がほぼ解析され、21世紀にはポスト・ゲノムの新しい医療が花開こうとしています。また、画像解析の精度は更に増し、医療の領域へロボットなどの機械化が進み、医学と医療は益々進歩してまいります。諸君には、まさにこの21世紀最先端の医療の担い手となることが期待されています。しかし、専門領域は非常に進歩し、高度化したけれども、人間を対象とした医療全体をみる総合的な視点が失われがちとなって、医療の受け手側からは、医療不信の声が上がるということが起こって参りました。そして、医学の進歩と倫理の調和による新しい医療のあり方が、問われるようになったのであります。
人間は心と身体をもつ存在であって、しかも両者は分けることができません。しかし、学問の分野では、物質と精神を明確に分け、身体を物質として、取り扱ってきた結果、医学は科学技術の発達とともに、大きく進歩いたしました。
しかし、医学が、人間を心と身体をもつ存在として多面的に解析し、その本質に迫る作業を根底とするならば、心と脳の研究は、必ずしも現在十分に深められているとは言えないように思います。21世紀は、心の世紀とも言われますが、諸君は、医学の進歩に対し、人間の心を基盤とした、新しい医療のあり方と倫理の確立を、生涯、問い続けていただきたいと思います。
次に、諸君が学び、卒業したこの札幌医科大学の役割についてぜひ考えていただきたいと思うのであります。言うまでもなく、本学は北海道が設置している公立大学です。
公立の医科大学は、医療人の人材育成を通じて、地域の公共性に貢献するのが使命であり、ここが、国立大学・私立大学とは異なる視点であります。
近年、医学、医療は高度化、専門化が著しく進み、また一方で、患者の立場にたつ医療が展開されるようになりましたが、どのような地域においても、最新の医学に基づいた質的に高度で、配慮の行き届いた医療を受けることが地域住民から要望されるようになってまいりました。
道民のために、このような地域医療の質の高さを保証し、地域社会における健康作りに寄与するのが道立医科大学としての本学の役割であろうかと思います。そのために、最新の医学知識と技術を身につけた患者の立場にたつ医療人を育成し、社会へ送り出すことが求められております。すなわち高度専門職業人としての医師、コメディカル医療者を育成することにより、保健予防からリハビリテーション、プライマリー医療から先端医療までの幅広い分野で地域の公共性に貢献することが望まれています。
このような時代の流れを受けて、札幌医科大学では、21世紀における医学・医療の高度化、専門化、多様化に対応し、道民へ質の高い保健と医療を提供するために、医学部及び保健医療学部における学部教育の充実に加えて、大学院課程の整備、充実をはかっているところであります。卒業生及び大学院修了生の諸君は、この本学の使命を自覚し、21世紀における医学と医療の担い手として、生涯を通して最新の知識と技術の研鑽につとめることを誓っていただきたいと思うのであります。諸君の在学中に、最新設備の附属図書館と情報センターをもつ基礎医学研究棟が完成し、東棟には学生諸君のために20の演習室を設置できました。また、憩いの場としての交流会館が、昨年完成し、諸君の入学時に比べると、自学自習の勉学環境や心身を鍛え、人間性を育む部活動の環境は整ってまいりました。
また、本学は北海道における医学、医療の中核としての機能を充実することが期待されていますが、近く、全道全域の三次医療を担当する高度救急救命センターが設置される予定です。また、臨床各科が参加する全国的にもユニークな遺伝子治療プロジェクトが進行中であります。さらに、近い将来の課題として、新しい医学に対応した研究体制及び診療体制の整備、北海道における保健医療の中核としての地域リハビリテーションセンター、あるいは、僻地医療を支援するための地域医療支援センターの設置などが企画されております。
このように、諸君の母校は、新しい課題に積極的に取り組み、北に輝く特徴ある医科大学として、これからも発展をしてまいります。私ども札幌医科大学に奉職する者は、諸君が本学で学んだことを誇りにできるように、教育、研究、診療の実績を上げ、それぞれの分野で、精一杯努力してまいります。諸君は、諸君で、この母校で学んだ日々を心のよすがとし、医学、医療、保健そして福祉の向上のために、全力をつくして活躍していただきたい、と思うのであります。
終わりに、初代学長 大野 精七先生が日頃学生へ話されていたことを諸君へ伝え、私の式辞を終えたいと思います。その第1は、健康でありなさい、つまり身体を鍛えなさいということです。第2は、悪いことをしてはいけない、医療に携わる者は倫理的でなければならない、そして第3は、世界へ目を向けなさい、井の中の蛙であってはならない、医学は世界へ開かれている、ということです。諸君はこの3つのことを心に止め、札幌医科大学の建学の精神であるフロンティアスピリットを大いに発揮して、逞しく生きていただきたいと願っております。
卒業生及び大学院修了生の諸君の輝かしい前途を祝し、今後の大いなる活躍を心から祈りまして、式辞とします。