したがって,安定した姿勢を維持するためには,重力に抗して身体を支え,様々な外乱に抵抗できる
能力をもち,様々な動作を行うための適切な身体の準備状態が必要であるといえます.
4.転倒予防と歩行
ヒトは進化に伴い,直立二足歩行を獲得しました.しかし,四足で歩行するのに比べて難点がありま
す.重力との関係により,腰や膝への負担が大きくなり,重たい頭部が高い位置にあるためバランスが
悪く不安定になりました.それは,転倒しやすくなったことを意味します.
歩行能力と転倒の経験率との関係において,
“歩行の速度”が重要な因子といわれています.その目
安は秒速で1mを歩く速さ,時速で3.6 kmです.およそ横断歩道を渡りきることができる速さです.し
たがって,ただ歩くのではなく,少しは自身の歩く速さというのを意識することも大事かもしれません.
その際,ちょっと頭を使ってみましょう.歩きながら周囲に気を払う,町並みの景色や建物を眺めな
がら歩くのもありますが,例えば,会話をしながら歩く,引き算やしりとりをしながら歩くというのも,
積極的に脳を刺激しながら歩くことになります.これは二重課題歩行といわれ,様々な事に注意を払い
ながら運動するという難易度の高い運動です.但し,
“スマホ歩き”は危険です.
5.転倒を防ぐための運動と対策
転倒予防の教室などでは,様々な運動がなされています.その内容は主にストレッチ,バランスト
レーニング,筋力トレーニングが多くなされています.今回は紙面の都合上,トレーニング内容につい
ては紹介程度とさせていただきますが,ストレッチであれば,胸と背中を開くあるいは足の指や足首を
ゆっくり回すことなどは大事です.また,バランストレーニングであれば,座布団やクッションの上に
立ち,左右の足へ体重を移動させる.そして次第になれてきたら,足踏みをするというのも良いでしょ
う.その際は,周囲にすぐに掴まれる物がある場所を確保してください.筋力トレーニングであれば椅
子に腰掛けた状態での膝伸ばし,軽い膝の屈伸程度のスクワットなども良い方法です.この他にも様々
なトレーニング方法が紹介されていますが,トレーニングの方法については,地域の介護予防や転倒予
防教室などの専門的な知識を持っている指導者に相談し,自分に適した方法を安全に行って欲しいと思
います.
転
倒予防のため,運動することは大切なことですが,それ以外にも気をつけて頂きたいことがあり
ます.それは“薬剤の数”です.多剤処方と転倒発生頻度に強い関係があることがわかっています.処
方されている薬剤の数が5種類以上から転倒発生の頻度が増加します.自分の判断で勝手に薬をやめて
しまうことは危険ですので,十分に担当の医師と相談し,指導を受けることが大事です
その他の対策としては,周囲の環境に目を向けてみましょう.都市部の住宅に暮らす高齢者の転倒状
況を調べた結果.屋内で転倒される方は全体の32%.屋外は41%を占めます.さらに屋内での転倒