當瀬細胞生理学講座教授の新コラム「真健康論」第24回

當瀬細胞生理学講座教授の毎日新聞連載コラム「真健康論」24 回:真健康論:第24回 概日リズム、体を調整=當瀬規嗣(5月14日毎日新聞掲載)

當瀬細胞生理学講座教授

當瀬細胞生理学講座教授

真健康論:第24回 概日リズム、体を調整=當瀬規嗣(札幌医科大学医学部細胞生理学講座教授)


 地球は1日24時間で1回転しています。そのため、昼と夜が交互に訪れ、24時間のリズムをつくります。地球のすべての生物は、この昼夜交代のリズムに少なからず影響を受けます。人も例外ではなく、夜に眠ることになっています。

 昼夜交代のリズムは、明るさと暗さの交代のリズムであり、それを人は目で感じます。たとえまぶたを閉じていても、明るいところにいるかどうかは分かるものです。この明暗の交代は脳の視床下部にある「生物時計」という体のリズムを作り出す部分に入力され、昼夜のリズムが体のリズムとなります。このリズムのことを概日(がいじつ)リズムと呼びます。

 人の体には概日リズムに従うものがたくさんあります。例えば、体温は朝方低く、夕方高くなるように変動します。ホルモンの中では、糖代謝を調節して生存に不可欠な糖質コルチコイドや、体の成長を促す成長ホルモン、体温や睡眠に関係があるメラトニンなどが、1日の間に分泌量が増減するリズムを示します。

 メラトニンの分泌量が増加すると、人は睡眠に入ることが分かっています。夕方から夜にかけて分泌量が次第に増えて、それに伴って、眠気が差し自然と睡眠に入るのです。つまり人は概日リズムで睡眠するのであり、単に疲れただけで眠るのではないのです。海外旅行に行くと昼間に眠くて、夜に寝付けない、いわゆる「時差ぼけ」が出ます。これは、我々が「日本時間」の概日リズムで調整されていて、現地の昼夜リズムに調整されるのに1週間程度を要するためです。

 一方、深夜の仕事となると、問題はもっと深刻です。概日リズムはそのままで、夜働いて、昼眠らなければならないからです。この場合、いくら十分な睡眠時間を取ったとしても熟睡できることはまれで、睡眠で1日の疲れを取ることは不可能と思われます。なぜなら、昼間はメラトニンが出ていないからです。逆に、夜間の仕事の効率は明らかに低下します。メラトニンが出て、体は睡眠すべき状態になっているからです。なので、注意力、持続力の著しい低下は免れません。たとえ、昼間に十分な睡眠を取ったとしても、です。深夜業務に昼間業務と同じ基準を当てはめる深夜バスの運行基準は、根本的に誤っています。国土交通省と業界は反省が必要です。

(とうせ・のりつぐ=札幌医科大教授)=次回は28日掲載

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