當瀬細胞生理学講座教授の新コラム「真健康論」第20回

當瀬細胞生理学講座教授の毎日新聞連載コラム「真健康論」20回:真健康論:第20回 ヒトは皮膚呼吸する!?=當瀬規嗣(3月18日毎日新聞掲載)

當瀬細胞生理学講座教授

當瀬細胞生理学講座教授

真健康論:第20回『ヒトは皮膚呼吸する!?』=當瀬規嗣(札幌医科大学医学部細胞生理学講座教授)


 陽気もゆるんで、春の訪れを実感するころとなりました。春といえば、それまで冬の眠りについていた生き物たちが、一斉に活動を開始する時期です。花ならば梅に桜、動物ならばカエルが思いつきますね。

 ところで、カエルは水辺の土の中で冬眠をします。冬眠中は全く体を動かさず、ほとんど息をしないのです。息をしないでどうして生きられるのかというと、もともとカエルは皮膚から直接酸素を取り入れていて、肺による呼吸と2本立てになっているからです。

 皮膚から直接酸素を取り入れたり、二酸化炭素を出したりすることを皮膚呼吸と言います。カエルは皮膚呼吸をするために皮膚は極めて薄く、薄い皮膚を守るために、常にぬれていなければなりません。だから、カエルは長時間水辺を離れられません。

 なぜ、こんな話をするかというと「ヒトは皮膚呼吸していて、それがとても重要だ」という誤解が、世の中に今なお残っているからです。ヒトも皮膚から酸素を取り入れることは可能です。しかしその量は、肺呼吸で取り入れる酸素の量と比べて、わずか0・6%に過ぎません。つまり、人の皮膚呼吸は皮膚のごく表面の細胞に酸素を供給するだけです。もちろん通常の肺呼吸をしていれば、これらの細胞にも酸素は届きます。もし、皮膚呼吸が活発なら、ヒトは息をしなくてもカエルのように生きていられるはずです。にもかかわらず、「皮膚呼吸をしないとヒトは病気になる」「皮膚呼吸を促進して健康になろう」とか根拠のないことが、まことしやかに流れ、一部は商売に利用されているようです。

 では、カエルができる皮膚呼吸をヒトはなぜしなくなったのでしょうか。それは、皮膚が厚くなったからです。爬虫(はちゅう)類、鳥類、哺乳類は皮膚を厚くして、体の水分を保つようになりました。それによって水辺を離れて、地上を自由に行動できるようになったのです。一方で、皮膚が厚くなると酸素が皮膚を通過しにくくなるので、かわりに肺呼吸のしくみを発達させたというわけです。ヒトは皮膚呼吸をほとんどしないのです。覚えておいてください。(とうせ・のりつぐ=札幌医科大教授)=次回は4月2日掲載


毎日新聞 2012年3月18日 東京朝刊


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