當瀬細胞生理学講座教授の新コラム「真健康論」第17回

當瀬細胞生理学講座教授の毎日新聞連載コラム「真健康論」17回:脂肪がたまるわけ=當瀬規嗣(2月5日毎日新聞掲載)

真健康論:第17回『脂肪がたまるわけ』=當瀬規嗣(札幌医科大学医学部細胞生理学講座教授)


 肥満は体中に存在する脂肪組織に脂肪がたまることで起こります。体は毎日必要な栄養素をエネルギーとして消費して、維持されています。その消費量より多くの栄養素を1日で摂取すると余るのです。そこで、栄養素を貯蔵しやすい形にしてためて、栄養素が不足したときに備えます。

 選ばれた貯蔵の形式が脂肪にすることです。なぜなら脂肪は軽いからです。ご存じのように脂肪は水より軽く、浮きますね。一方、たんぱく質や糖分は水より重いので下に沈みます。コーヒーにクリームを入れると上に浮かびますが、お砂糖は下に沈みます。なので、おなじエネルギーを貯蔵するなら脂肪の方が軽くなるのです。

 というわけで、多くの動物がエネルギーを貯蔵するために脂肪を利用しています。牛や豚のお肉はもちろん、お魚やカニ、エビにも同じ目的で脂肪がためられています。卵に脂肪が多いのはヒナの成長のためのエネルギーをためるためです。こうして私たちの食べ物にはたくさんの脂肪が含まれています。

 ところが、脂肪は消化吸収するためには厄介なものなのです。それは、脂肪が水に溶けない性質を持っているので、酵素が効きにくく消化されにくいからです。そこで、腸では胆汁の作用で脂肪を水に溶かし込んで消化、吸収を行います。吸収された脂肪分は、やはり水に溶けにくいので、直接血液には入れません。

 そこで、脂肪を運ぶためにたんぱく分子と結合してリポたんぱくを作ります。ただし、リポたんぱくもそのままでは血液に入りません。一度、リンパ管を経由して、胸元の静脈まで運ばれ、リポたんぱくが合流します。リンパ管の流れは大変遅いので、脂肪が腸で吸収されてから血液に入るまで半日以上の時間を要します。栄養素は血液に乗らないと利用されませんので、食べた脂肪分は、しばらくの間利用されません。一方、食べ物の糖分は腸から速やかに血液中に入るので、結果として糖分が優先的に消費され、これで当面のエネルギー需要は満たされます。

 こうして脂肪は消費されずそのまま脂肪組織にためられます。脂っこい食べ物を食べると、途端に体重が増えるのは、この仕組みのためです。脂肪は基本的にたまる運命にあるのです。(とうせ・のりつぐ=札幌医科大教授)=次回は19日掲載


毎日新聞 2012年2月5日 東京朝刊

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