當瀬細胞生理学講座教授の新コラム「真健康論」第15回

當瀬細胞生理学講座教授の毎日新聞連載コラム「真健康論」第15回『酒は「百薬の長」か』(1月8日毎日新聞掲載)

真健康論:第15回『酒は「百薬の長」か』=當瀬規嗣(札幌医科大学医学部細胞生理学講座教授)


 私の祖母は夕食前のコップ1杯の清酒を欠かしませんでした。幼かった私はそれが不思議で、理由を聞いてみました。返事は「毎日1杯のお酒は百薬の長」という一言でした。

 何となく合点がいって、毎日たくさんのお酒を飲む父を「おばあちゃんのようにしたら!」とたしなめましたが、父は笑っていただけでした。

 それ以来、少しのお酒は体に良いと信じるようになりました。毎日1杯のお酒が効いたのか、祖母は100歳近くまでの長寿で人生を終えたのです。そういえば、日本一長寿といわれていた人が、長寿の秘訣(ひけつ)を聞かれて毎日の焼酎をあげていました。

 さて、飲み過ぎが健康に良くないことは周知の事実ですが、少しのお酒は本当に健康に良いのでしょうか? 「酒は百薬の長」というのは、古代中国の漢の時代に言われたことのようですが、あくまでお酒をほめるための言葉で、何かしらの根拠があったわけではありません。

 ただ、少量のアルコールは血行を促進し、気分をあげてストレスを和らげる効果があるのは間違いありません。最近の研究では、少量のお酒を飲む習慣のある人の死亡率は、全く飲まない人の死亡率より低いとする結果が出ています。

 そこで、体に良いかもしれないお酒に、体に良さそうな薬草や香草を漬け込んで、お酒の効用を高めようとする企てが、古今東西で行われています。日本の薬酒や欧米で作られるリキュールなどです。お正月に飲むお屠蘇(とそ)も、漢方処方である屠蘇散を清酒に入れて、健康と長寿を祝う風習です。屠蘇散は体を温め、胃腸の働きを改善し、かぜの予防に良いとされていますが、通常、お屠蘇に使うような少量では薬効はでないと考えられます。いろんな理由をつけて飲んでいるだけなのかも……。

 結論としては少量のお酒にとどめるのがいいのですが、これが難しいのです。お酒は気分をあげますが、これは脳の働きを鎮める抑制性神経の働きが、アルコールによって抑えられやすいことによります。

 つまり、少量だけと決心してお酒を飲むと、抑制がとれて初めの決心はどこへやら、もう少し、もう少しと杯を重ねてしまうのです。やはりお酒は健康に良くないと思っておくのが得策のようです。(とうせ・のりつぐ=札幌医科大教授)=次回は22日掲載


毎日新聞 2012年1月8日 東京朝刊(毎日新聞社許諾)

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