當瀬細胞生理学講座教授の新コラム「真健康論」第7回

當瀬細胞生理学講座教授の毎日新聞連載コラム「真健康論」第7回「深呼吸でリラックス」の効用(9月11日毎日新聞掲載)

真健康論:第7回「深呼吸でリラックス」の効用=當瀬規嗣(札幌医科大学医学部細胞生理学講座教授)

 息は細胞に必要な酸素を体に取り入れ、代わりに細胞が作り出す二酸化炭素を体外に排出するために行います。細胞が栄養素からエネルギーを得るためには酸素が必要です。栄養素を酸素で燃やしていることと同じです。

 ものを燃やせば煙が生じますが、細胞で出る「煙」つまり排ガスが二酸化炭素です。二酸化炭素が細胞内にとどまると、細胞を酸性化して壊すおそれがあるので、外に出さなければなりません。酸素を吸ったら、必ず二酸化炭素を吐き出さなければならないのです。吸息と呼息が対になっているので、呼吸というのです。

 吸息と呼息の仕組みは随分異なっています。吸息では外肋間筋(がいろっかんきん)と横隔膜という二つの筋肉を使います。「スペアリブ」と「サガリ」です。これらの筋肉が収縮すると、胸の容積が広がり、それにつられて肺が広がり、空気が気管を通って肺の中に入る仕掛けです。つまり、吸息の時は、胸に力が入っています。筋肉が収縮をやめると、胸も肺も自らの弾力性で元に戻ろうとしぼみ、肺の中の空気が押し出されて呼息になります。呼息の時には力が抜けるのです。緊張時に深呼吸をすると、体がリラックスするように感じますが、呼息の時に力が抜けることと関係があるようです。

 一方で、深呼吸をすると頭がスッキリする感覚になります。大きな息で酸素がたくさん体に入るからと思われていますが、実は違います。通常の呼吸をしていれば、肺から流れ出す血液には目いっぱいの酸素が含まれています。大きな呼吸をしても、血液中の酸素がさらに増えることはないのです。たくさん酸素を送るには心拍が増えなければなりませんが、1回ぐらいの深呼吸ではそんなことになりません。

 深呼吸をすると、速い気流が鼻やのどを通過し、瞬間的にその粘膜を冷却します。これで脳が冷やされ、その効果により脳がスッキリするのではないかと言われています。あくびの効果も同じと考えられます。

 深呼吸は吸息で脳をスッキリさせ、呼息で体をリラックスさせることができるので、緊張をとって人を前向きにさせるのです。深呼吸をうまく使うのがいい手です。(とうせ・のりつぐ=札幌医科大教授)

毎日新聞 2011年9月11日 東京朝刊(毎日新聞社許諾)

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