コメント:木村博士は、生きた細胞内での核内蛋白の動態を解析する事で転写の分子機構を解明しよう、という研究を精力的に続けておられます。今回、転写研究のメッカ、PeterCook研(Oxford
University)での研究生活を終えられ帰国されましたので、研究成果と今後の展望についてお話を伺う予定です。
要旨:生細胞におけるクロマチン転写のメカニズムの解明を目指して、GFPを融合したヒストンならびにRNAポリメラーゼIIを発現する細胞を樹立した。生化学的解析や遺伝学証拠により、これらのGFP融合蛋白質は、内在性蛋白質と同様に機能していると考えられた。フォトブリーチングを用いてヒストンの静的動態を解析した結果、クロマチンがRNAポリメラーゼにより転写される際、ヌクレオソームが部分的に壊され、ヒストン八量体の一部(H3−H4)はDNAに結合したまま維持されるが、H2A−H2Bは離れることが示唆された。また、転写が行われなくとも真性クロマチン中のH2A−B2Bはゆっくり交換されることも明らかになった。これらの結果は、エピジェネティックな遺伝子発現の制御に、ヒストンの特にH3やH4の修飾がより重要であることと一致している。また、同様な解析から、核内の約25%のRNAポリメラーゼが転写中であり、転写サイクルの終了には10分以上かかることが示唆された。遺伝子長と転写速度から計算される転写伸長の終結はより短時間ですむことから、転写サイクルの制御は開始段階で制御されていることが考えられる。