最近、細胞内で合成される全蛋白質の30%が、最終的な正しい構造に到達することなく分解されてしまうという報告が出て、我々を驚かせた。さらに50%が分解されるという報告まであらわれ、これらはいずれも蛋白質の正しい構造形成が、きわめて複雑な過程を経てなされるものであることを示すとともに、細胞内で蛋白質の構造をチェックする、厳密で品質管理の機構が用意されていることを示唆している。
小胞体は、分泌タンパク質および膜タンパク質の正しい構造形成に中心的な役割を果たすオルガネラである。翻訳と共役しながら小胞体に輸送されてきたポリペプチドは、フォールディング、ジスルフィド結合、糖鎖の付加およびトリミングをはじめとする種々の修飾を受け、正しくフォールディングしたタンパク質だけが小胞体からゴルジへと輸送される。この過程をproductive
foldingと呼ぶ。一方、このようなproductive foldingが破綻するような条件下では、分子構造に異常をきたしたタンパク質は、小胞体の中できわめて厳密な品質管理(Quality
control)を受けることが最近の研究から明らかになってきた。
小胞体における品質管理には、3つの戦略が用意されている。糖鎖付加が阻害されたり、変異タンパク質が発現したりして、misfoldタンパク質を生じるような条件下(小胞体ストレス)では、1)UPR(unfolded
protein response) pathwayが活性化されて、分子シャペロンが誘導され、小胞体フォールディング容量の増加とmisfoldタンパク質の再生がはかられる。同時に、2)翻訳開始因子(eIF2a)のリン酸化を介して、大部分のタンパク質の翻訳を一時的に抑制することによってフォールディングの負荷を軽減する機構も備わっている。それでも異常タンパク質の蓄積に対処できない場合は、3)それらをいったんサイトゾルまで逆輸送してユビキチン・プロテアソーム系で分解する、いわゆる小胞体関連分解(ERAD)の系が働くことになる。
本講演では、このうち基質特異的シャペロンとしてプロコラーゲンのproductive foldingに必須の役割を果たしているHsp47と、糖蛋白質のERADに関与する小胞体新規蛋白質EDEMの品質管理機構における役割について話す。HSp47遺伝子をノックアウトするとマウスは胎生致死となり、コラーゲンは正しい3本鎖構造をとれなくなる。Hsp47はコラーゲン合成と共役し発現することで、繊維化疾患を初めとする種々の疾患と密接な関連を持っているが、新しく発見された転写因子を介するその転写調節機構についても触れ、併せて種々の病態におけるそれらの役割について考察する。