Entered: [2000.03.13] Updated: [2000.05.16] E-会報 No. 46(1999年 11月)
研究室紹介

北海道大学・大学院理学研究科・生命分子化学講座・生物有機化学研究室
矢澤 道生


 私たちの研究室は,昭和41年に理学部化学第二学科生物有機化学講座として新設され,八木康一教授(昭和41年−平成元年,現北大名誉教授),盛田フミ教授(平成元年−平成8年,現北大名誉教授)によって主宰されてきました.平成7年大学院重点化により化学専攻生命分子化学大講座を構成する研究グループになり,盛田教授の退官にともない矢澤が後を継いで現在に至っています.タンパク質化学を基礎にして,タンパク質分子の相互作用から生命現象の分子機構を解明しようとしています.

 生命活動の実体は無数の化学反応のネットワークであり,化学反応の進行方向と速度をコントロールして成り立っています.この制御機構は,一つ一つの化学反応にそれぞれ特異的な酵素-触媒-をセットし,酵素や制御因子とよばれるタンパク質分子の機能を調節することで成り立っています.細胞はいろいろなやり方でタンパク質の機能を調節していますが,私たちはこの中からカルシウムイオン(Ca2+)の結合による調節システムと,可逆的なリン酸化反応による調節システムに注目して研究をすすめています.

 当研究室には,筋肉の収縮とその調節の分子機構について,理学部化学第二学科生物有機化学講座以来の四つの大きな業績があります.

  1. 筋収縮の駆動部であるミオシン頭部のタンパク質分子モータードメイン(S1)の単離
  2. 化学エネルギーの力学エネルギーへの変換に必須なモータードメインのコンホメーション変化の発見
  3. 筋収縮活性化調節タンパク質カルモジュリンと,その多様な生理活性調節機能の発見
  4. 筋収縮弛緩調節タンパク質CPI17の発見

これらを基礎にして,さらなる発展をめざしています.現在は,平滑筋の収縮を調節する分子機構と,それを含めたカルモジュリンのCa2+調節の分子機構について研究をすすめています.

ミオシンのリン酸化と平滑筋の収縮調節機構の研究

 平滑筋の収縮は,細胞内Ca2+濃度変化に依存したミオシン分子のリン酸化と脱リン酸化により調節されています.この調節過程の分子機構を明らかにすることを目的にして研究を進めています.(1)収縮の基本 過程であるミオシン頭部S1とアクチンの相互作用の詳細と,そのATP加水分解反応(ATPase活性)との共役についての検討.(2)電子顕微鏡による観察を併用して,リン酸化状態の違いによるミオシン分子の高次構造変化を解析し,リン酸基の導入によってATPase活性やフィラメント形成能が変わる分子機構を検討.(3)ミオシン軽鎖キナ−ゼの分子構造変化の生理的意義についての電子顕微鏡を用いた検討.(4)ミオシンホスファターゼを特異的に阻害する内因性のタンパク質CPI17による収縮制御機構の検討.この研究で,血管平滑筋収縮調節には,Ca2+に依存して収縮開始を調節する系(カルモジュリン系)に加えて,弛緩を調節する系(CPI17系)もあることが明らかになりました.CPI17がどのような機構で働くのかをタンパク質工学的手法を用いて検討しています.

カルモジュリンのカルシウム調節機構の研究

 細胞内Ca2+濃度変化に依存したカルモジュリンの酵素活性化機構を分子のレベルで明らかにする研究です.(1)遺伝子工学的手法でアミノ酸配列に手を加えたカルモジュリン変異タンパク質を作製し,Ca2+結合能や各種酵素を活性化する能力を解析.(2)NMRとX線結晶解析法によりカルモジュリンの分子構造についての知見を得る.(3)カルモジュリンの機能の詳細を標的酵素の側から研究する.このため,精巣のカルモジュリン依存性プロテインホスファターゼ(カルシニューリン)やプロテインキナーゼIVのcDNAクローニングをすすめ,精巣の成熟過程での生理機能を検討しています.また,パン酵母や細胞性粘菌の細胞骨格系で機能するカルモジュリンの標的タンパク質についても検討し始めました.

 現在のスタッフは,私と加藤剛志助手の2人です.ミオシンと電子顕微鏡観察に関連する研究は,加藤さんが積極的に進めています.大学院生・学生15名を加えた17人で研究をすすめています.CPI17の発見者で,精力的に研究をすすめてきた江藤真澄助手は,10月1日から,Virginia大学の細胞シグナル研究所に転職されました.CPI17の研究では,江藤さんと協同研究を継続しています.


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編集幹事:伴戸 久徳 hban@abs.agr.hokudai.ac.jp