Entered: [2000.04.16] Updated: [2000.05.16] E-会報 No. 47(2000年 4月)


研究室紹介

北海道大学・大学院獣医学研究科・疾病制御学講座

微生物学教室

喜田 宏



 当教室の現在のメンバーは,教授:喜田 宏,助教授:岡崎 克則,助手:高田 礼人,事務官:影浦 栄子,大学院生5名:尾崎 弘一,二宮 愛,田中 裕子,渡辺(永野) 登喜子,ラファエル ムメカ,学部生6名:久保木 基高,田村 友紀,野田 岳志,村本 裕紀子,伊藤 睦美,松下 祥子の計15名で,他に国内外からのポスドクと客員が2〜3名加わります.

 当教室の研究ゴールはヒトと動物の微生物感染症を予防・制圧することです.そのため,次の目標に向けて私達は研究しています.
(1) 病原微生物の起源と自然界における存続メカニズムを解明する.
(2) 微生物の宿主との相互作用を解析し,宿主域,伝播経路,病原性と免疫ならびにこれらに与る双方の因子を究明する.
(3) 感染症の予防,診断と治療方法を確立し,その制圧対策を立案,実施する.

 私達の研究目標は以上のように,極めて古典的で,何の変哲もありませんが,現今ではこのように労多く地味な研究を細々と続けている研究室はユニ−クですらあると自らを励ましつつ,次の研究課題に取り組んでいます.
1)インフルエンザウイルスの起源,自然界における存続と新型ウイルス出現メカニズムの解明,ならびにその予測とこれに備えた対策の提案と実施
2)ヘルペス,インフルエンザ,パラミクソおよびエボラウイルスの糖蛋白分子の構造と機能ならびに宿主細胞への吸着と侵入メカニズムの解析
3)ウイルスの宿主域と病原性発現に与る宿主側およびウイルス側因子の解析
4)ヘルペスウイルスの遺伝子発現調節機構の解析
5)インフルエンザウイルスRNAポリメラ−ゼ複合体の構造と機能の解析
6)粘膜免疫を誘導するペプチドおよびDNAワクチンの開発
7)細菌およびウイルス感染症の迅速診断法の開発
8)家畜・家禽の疾病予防と人獣共通感染症の制圧に向けた衛生技術の開発と普及

 分子生物学の知識と技術を必須とする基礎研究から行政との連携が重要な応用研究までを包含する以上の課題に,ヒトと動物の微生物感染症の予防・制圧に向けて,職員,院生と学部生が一丸となって,あるいは他の研究室との共同研究として取り組んでいます.

 研究課題1)は特に,20年以上に亘り継続してきましたので,以下にその現状を要約します.

 インフルエンザは世界各地で家禽,家畜とアザラシ等の野生動物とヒトに甚大な被害を及ぼしてきました.インフルエンザウイルスの生態調査によって,動物とヒトのインフルエンザAウイルスの遺伝子分節は全てカモのウイルスに由来すること,また,カモに受け継がれているウイルスの抗原性と遺伝子は高度に保存されていることが判りました.過去数十年間,ヒトが経験していないヘマグルチニン(HA)亜型の「新型ウイルス」がヒトに伝播すれば,インフルエンザの大流行が起こります.今世紀,新型ウイルスは4回出現し,その度に多くの人命が失われ,社会機能は麻痺しました.これからも新型ウイルスは出現するでしょう.新型ウイルス出現のメカニズムを明らかにして,その流行を防止するための対策を確立しておかねば,同じことが繰り返されます.    

 1968年の新型インフルエンザウイルスA/Hong Kong/68(H3N2)株は,中国南部で,ヒトのH2N2ウイルスとシベリアの湖沼からカモが持ち込んだH3ウイルスがアヒルを介してブタの呼吸器に共感染して生じた遺伝子再集合体であることが判明しました.1957年の新型H2N2インフルエンザウイルスも同様の経路で出現しました.1918年に北米でブタからヒトに伝播して世界に拡がったH1N1スペイン風邪ウイルスはアラスカかカナダからカモが持ち込んだウイルスに起源があるものと推定されます.1997年に香港に出現したH5N1ウイルスもまたカモからニワトリに伝播して病原性を獲得したものであることが判りました.

 以上の成績に基づき,地球規模で水禽,家禽とブタにおけるウイルスの分布を明らかにして,新型ウイルスの亜型を予測すると共に,ワクチンウイルス候補株を選定し,そのライブラリーを樹立するために,国際共同研究 メProgramme of Excellence in Influenzaモ を提案し,これがスタートしたところです.

 主旨へのご賛同をいただければ,お力添えをお願い申し上げる次第です.


060-0818 札幌市北区北18条西9丁目
北海道大学大学院獣医学研究科
疾病制御学講座
微生物学教室 喜田 宏
電話:011-706-5207 Fax:011-709-7259
E-mail: kida@vetmed.hokudai.ac.jp


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