Entered: [2000.04.16] Updated: [2001.04.26] E-会報 No. 50(2001年4月)
フロリダと聞いて思い出されることは何でしょう. オレンジ,グレープフルーツなどの柑橘系果物でしょうか,昨年の大統領選挙で最後までもめた州でしょうか,それとも,アメリカのお金持ち達が避寒地として過ごす別荘地でしょうか.それともスペースシャトルの打ち上げ地でしょうか.フットボールなどプロスポーツも有名ですね.フロリダにはフットボール,バスケットボール,アイスホッケー,メジャーリーグ,おまけにメジャーリーグサッカーまですべてのプロスポーツチームがあります.春先にはニューヨークヤンキースがタンパでキャンプをしたりします.また,フロリダはディズニーワールドなどのテーマパークでも有名ですね.ディズニーワールドの他ユニバーサルスタジオ・フロリダ,シーワールドなど幾つかのテーマパークがフロリダ半島中央部のオーランドに集まっています.フロリダのイメージは幾つか思い付かれるでしょうが,その中にボストンやニューヨーク,シカゴ,カリフォルニアといったサイエンスとか,学問の中心地といったイメージはないのではないでしょうか.実際フロリダで有名な大学は幾つかありますが,その多くはアメリカンフットボールなどのスポーツで有名で,サイエンスのレベルが他の州に比べて飛びぬけて高いといった感じではないようです.
私はそんなフロリダに昨年の5月から,フロリダ州タンパにきており,フロリダ州で唯一のNational Cancer Institute認定癌センターであるH.Lee Moffitt Cancer Center at University of South Floridaにてポスドク生活を送っています.ここでは,私が感じたフロリダや私たちの研究室の紹介を少しだけしたいと思います.フロリダ州はアメリカ合衆国の南東部に位置しており,気候区分ではサバナ気候に属しています.そのせいか一年中温暖で冬でも零下になることはほとんどありません.一年中天気の良い日が多いですが,雨季と乾季があり夏の雨季には毎日のように午後から夕方にかけて,西日本で経験する夕立のように激しく降るスコールが降ります.合衆国ではどこでもそうなのかもしれませんが,フロリダもたいへん自然に恵まれた地域です.日本とは気候が違うことや,フロリダ半島には山がなく高いところでも海抜100m程度であることから,山に囲まれた日本で育った私たちには,遊びに行く時などの車窓から見る景色も日本とは違い,どこか物足りなく違和感を憶えます(特に北海道から比べれば大きな違いがありますね).池,湖,川,湿原などは多く存在しており,多くの池や湖にはワニが生息しているともいわれています(実際に私たちのアパートの池にも体長1mほどのアリゲーターが住んでいます).森林も多く,その中では,リス,アルマジロ,イタチ,アライグマ,シカなどが多数生息しているようで,メイティングシーズンには道に飛び出した動物たちが交通の犠牲になっていることがしばしばです.海には各種魚はもちろん,エイやイルカなどが泳いでいるのも見られますし,魚を目当てに,飛来してくるカモメやペリカンも見かけることがあります.
私たちの住むタンパは,フロリダ州中西部に位置する特にこれといって特徴のない地方商業都市です.海水浴のできるビーチまで車で1時間程度,前述のテーマパークの街オーランドまででも車で1時間強と,遊びに行くには絶好のロケーションです.ディズニーなどのテーマパークは通常フロリダ州民には優遇制度がありますから,家族できている人たちには学び働くよりも遊び遊ぶという感じの地理的条件です.背の高いビルも5,6本程度と都市密集度も低く,私の良く知っている徳島市のような雰囲気でしょうか.タンパはまた成長中の都市でもあり,人口も増えている様子で,主要道路に面した郊外の空き地に建設中のアパートのコンプレックスをよく目にします.ダウンタウンも私たちの住む郊外もストレスがなくだいたいにおいて安全で,大都会のように殺人事件が多発したり,始終パトカーや救急車のサイレンの音が聞こえているということはありません.物価も日本並みで,年2,3万ドルのポスドクの給料でなんとかやって行けます.アパートの家賃も日本と比べて安いというわけでも,高いというわけでもなく,日本並みの家賃を払えば比較的安全な場所に適度な広さで住むことができます.ボストンなどの都会に比べると住環境はとても良いのではないでしょうか.食料品もお店を選べば新鮮な野菜や肉が手に入りますが,魚の種類には不満が残ります.エビの種類は豊富なくせに魚の種類は貧弱で,瀬戸内海地方出身の私としては非常に不満なところです.シーフードレストランはフライばかり売っているようですから,魚が欲しくなったら自分で釣るか,すし屋に行くしかないのかもしれません.
人口比率については良く分かりませんが,アメリカ系白人,黒人の他,歴史的地理的な関係からかヒスパニックが多く,病院などでも英語,スペイン語の両方を話す看護婦,受付が雇用の条件であることもあるらしいです.その他は中国人やインド人が多く日本人はほとんどいません.タンパ中でも数百人程度ではないでしょうか.その為日本人コミュニティは小さく,話をしたことがなくても顔だけは知っているとか,あったことはなくても名前だけは知っている,という感じかもしれません.私の働くUniversity of South Floridaにも何人か日本人ポスドクがいますが,その多くはやはり医学部出身者の医学部への留学で,多い時でも20人程度なのではないでしょうか.で,その中の日本人ポスドク2人が働くのがH.Lee Moffitt Cancer CenterでDr. Wangが主宰する研究室です.
Wang先生は日本での生活が約10年と長く,英語はもちろん日本語にもたんのうで,とても面倒見の良いかたです.釣りが趣味ですが,週末は何かと忙しいらしく,最近はなかなか釣りに行けないようで,この間も英語でディスカッションをしていた後に「釣りぐらい行かしてもらわないと」と日本語でぽつりとこぼしておられました.
そんなWang先生の主宰する研究室はH.Lee Moffitt Cancer Center,Drug Discovery Programの一つでCancer Center の1階にあります.研究室の広さは4人がフルに働くのには狭いほどで,まさにこぢんまりとしたラボです.ラボに所属しているのは2人のポスドクと大学院生一人で,Wang先生も少なからず実験をされています(現在はWang先生の奥様もお手伝いに来られていますが,Wang先生はいつもポスドクが欲しいポスドクが欲しいと嘆かれています).が,最近はグラントの準備,用意,その他様々な雑用などに時間を取られていてあまり実験室に来ることができないとこぼしていました.ラボでのテーマはBcl-2ファミリーを中心にしたアポトーシス,細胞周期とチェック機構などで,最近ではWang先生のラボでクローニングしたアポトーシス関連蛋白質の機能解析に力を注いでいます.こぢんまりとしたラボですからどこかマニュファクチャーといった感じが強いのですが,それだけに小回りが利き方針決定も早く回転が速いのが特徴です.2週間に一度行われるラボミーティングでもエネルギッシュなディスカッションがあり,その場で次の実験や次のプロジェクトについての指示が出ますし,気になるデータ気になる点があるとラボでもすぐ私たちを捕まえてディスカッションの続きを行うこともあります.私たちポスドクは,Wang先生から心地よいストレスを与えられながら,常に論文を書くための最短距離を走ることを求められているような気持ちで日々の研究生活を送っています.あと,どれくらいこのラボで研究生活を送ることができるか分かりませんし,大きなラボでえられるような多数のバブリケーションには恵まれないかもしれませんが,このラボでの生活は今後の私にとって大きな財産になるようなきがしています.ラボの正式な住所は以下の如くです
Drug Discovery Program, H. Lee Moffitt Cancer Center, University of South Florida
12902 Magnolia Drive, Tampa, Fl 33612-9497