Entered: [2000.04.16] Updated: [2000.09.01] E-会報 No. 48(2000年 7月)


海外レポート =留学体験記=

National Jewish Medical and Research Center

村上 正晃



 

 私は現在アメリカコロラド州デンバーのNational Jewish Medical and Research Center(www.njc.org)に留学しています。この4月でこちらに来て1年が過ぎました。北大では免疫研免疫病態部門(上出利光教授)の助手をしていましたが、運良く学術振興会の海外特別研究員に選出され、渡米しています。

 National Jewish Medical and Research Centerは3年連続肺関係の病気で全米NO.1となった病院兼研究所です。日本人のPos-docは研究所全体で5、6人います。私が所属する研究室はDepartment of Medicineの中のBasic Immunology分野の部屋の一つでT細胞の基礎的研究をしています。夫婦であるJohn KapplerとPhillippa Marrack両先生によって運営されています(www.kmlab.njc.org)。2人ともHoward Hughes Medical InstituteのInvestigator(www.hhmi.org)で近くに有るColorado Universityの教授を兼任しています。Pippaは来年度のアメリカ免疫学会のpresidentに選出され、ますます忙しくなりそうです。

 部屋は教授が2人とPos-doc10人(アメリカ人7人、日本人2人、中国人1人)、テクニシャン8人、Ph.dコースの学生が4人(アメリカ人2人、中国人2人)に専属の秘書が1人、Basic Immunologyの共通の秘書が2人の27人で構成されています。JohnとPippaともにラボの雰囲気をとても大切にしているので非常に快適に実験できます。例えば、新しい人が研究課題を決める時、基本的にT細胞に関することなら何をやってもOKなのですが、近い課題の人がいればその人も交えて話し合い、皆が納得してから仕事を始めます。

 通常Pos-docは5ム6年この研究室に留まり研究してpositionを取って移る様です。この1、2年は特に人の入れ替えの時期で、私が在籍したこの1年でも5人が他の場所にpositionを取り出て行きました。来年度も3ム4人が違う場所に移る予定です。そのため、最近Pos-doc候補者の発表会と面接が毎月行われています。

 教室の研究課題はT細胞に関する基礎的研究ですが、JohnはMHC-TCR関連の分子レベルの解析と分子の結晶化を行っており、PippaはT細胞の機能を主に解析しています。この部屋の研究の本流は教室創立から続いているT細胞受容体とスーパー抗原関係の仕事です。蓄積されたデータ、試薬、変異マウス等が多数有り、非常に研究しやすい環境です。Ideaさえあればほとんどの実験が制限なくできます。しかし、そうそう良いideaは湧き出てくるわけでは有りませんが。

 Pos-docはT細胞に関することなら基本的に何をやってもよく最初にlabに来た段階で、すでにいるPos-doc等から話を聞いて自分が何をするかを考えてJohnあるいはPippaと話をして最終的に研究課題が決まります。部屋には中間管理職的人はいなくて研究は基本的に自分一人で進めます。必要に応じて他のPos-doc等と共同研究も行われます。面白いデータが出た時や研究が上手く行かない時はJohnあるいはPippaと不定期に話をすることになります。論文がまとまりそうな時もJohnとPippaと話をして不足しているデータや投稿する雑誌のレベルを決めて行きます。

 私はPippaのグループで研究課題はCD8+メモリーT細胞の維持に関する解析を行っています。この課題は昨年末にスタンフォードに移ったPh.Dの学生がPippaと5ム6年前からやっていた高齢マウスに存在するCD8+クローンの解析がもとになっています。CD8+メモリーT細胞の生体内での数がIL-15で増加し、IL-2で減少し、これら2つのサイトカインのバランスでCD8+メモリーT細胞の数が長期に渡り維持されると言うデータを今年に入り論文に運良くまとめることができました。また、昨年末から千葉大医学部2内出身のPos-doc、坂本明美さんが来られて一緒に仕事をしています。明美さんは御主人がコロラド州立大学のPos-docでお子さんが2人いるのにも関わらず片道1時間以上かけて研究室に通っておられる非常に元気の良い方です。自己免疫等の臨床的知識が豊富でいろいろ教わっています。

 研究室では水曜日の午前中が連絡会議とPos-doc、Ph.Dの学生の研究発表が行われます。毎週、1人自分の研究を1時間半ぐらいかけて皆と討論しながら話します。一年間に2ム3回まわってきますが、驚くべきことに大変な多忙の中、JohnとPippaも皆と同様に自分の研究を発表します。こちらに来た当初はこの会でPos-doc等が机に足を投げ出して教授と討論しているのには驚きましたが、最近は私も躊躇なく机に足を乗せれるようになりました。この研究所の中では共同研究も盛んですが、これには毎週2回4人30分ずつ研究発表するRIPという会が役立っています。この会に真面目に出ると研究所の中の他の部屋の研究者の研究課題を詳しく知ることができます。

 通常の1日の生活は朝8時ごろから研究室に行き、夜の7時か8時まで研究すると言うもので日本にいた頃に比較して家族とすごす時間が長くなったような気がします。土曜は働きますが、日曜はできるだけ休むようにしています。アメリカ人のPos-docは家族を大切にして家庭の仕事、子供の送り迎え、家の修繕、買い物等を積極的にしています。また、アメリカ人のPos-docたちはスポーツ好きでサッカー、アメフト、スキー、ゴルフ、バスケットボール、ジム通いとせっせと体を動かしています。私も彼等に誘われいろいろ参加していますが、日本にいる時よりも体調が良くなりました。アメリカ人は強い、大きいとかが大好きなので留学を考えている人は英語教室よりもジム通いをして筋肉を付けた方が友だちが早くできるかもしれません。

 デンバーは1時間ほど車で走るとロッキーなのでoutdoor lifeが盛んでとても気に入っています。また、東、西海岸の都市に比較すると住宅事情もよく1000ドル/月前後で日本と比較して非常に大きな家を借りることができます。しかし、子供の教育費は日本より高いです。私立の学校にいれると500-1000ドル/月かかります。他の生活費、食費、光熱費、ガソリン等は日本より安く多分半額以下ですんでいます。アメリカの生活は非常に快適でこちらにとどまる衝動にかられることのしばしばです。しかし、日本と違い一般の人々も鉄砲を持てることを忘れることはできません。時々、銃による事件が新聞やラジオで流れます。地域ごとに住んでいる人の層が違うので危なそうなところには近付かないような注意が必要です。

 アメリカでの研究および生活は日本と異なることが多く、いろいろな点で勉強になります。留学の時期、研究室選びは難しいかもしれませんが、もし、留学できる可能性が有るのなら外国に出てみたらいかがですか?

 最後になりましたが、留学の機会を与えてくださいました、北大免疫研免疫病態部門、上出利光教授に感謝いたします。

 


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