ユビキチンプロテアソームシステム
東京都臨床医学総合研究所 田中 啓二
ユビキチンとプロテアソームは細胞内タンパク質分解機構を構成する主要分子である.ユビキチンは活性化酵素(E1)・結合酵素(E2)・リガーゼ(E3)の複合酵素反応で標的タンパク質に共有結合すると,これが指標となって標的タンパク質はプロテアソーム(真核生物のATP依存性プロテーゼ)により選択的に分解される.従来タンパク質分解は生体応答の制御には不向きと考えられていたが,その不可逆性・即応性・順次性などユビキチンプロテアソームシステムが有する特性は,多様な生体反応を一方向に決定する合理的な手段として生命科学の様々な領域で多用されていることが分かってきた.とくに細胞周期・シグナル伝達・免疫応答などにおけるユビキチンプロテアソームシステムの役割は,国内外で大きな関心を集めている.我々はプロテアソームが内在性抗原のプロセシング酵素として免疫に関与することを明らかにしてきた.また最近,NF-kBシグナル伝達系のキー分子であるIkBa(NF-kB阻害因子)をユビキチン化するIkBa-E3がSCFFbw1であることを同定すると共にNedd8(ユビキチン様モディファイヤー)システムによるE3の調節機構を解明した.さらに,常染色体劣性若年性パーキンソン病の原因遺伝子parkinがRING-finger型の新しいユビキチンリガーゼであることも見出した.本講演では,進展著しいユビキチンプロテアソームシステムのバイオロジー研究に焦点を当て概説する.