RB癌抑制遺伝子ファミリーと発癌防御


北海道大学遺伝子病制御研究所・病態修飾分野 畠山 昌則

 RB癌抑制遺伝子がコードするpRB蛋白ならびにその相同分子であるp107、p130から構成されるpRBファミリーは細胞増殖の強力な抑制分子として働く。このうちpRBの機能はG1サイクリン-CDKを介するリン酸化により不活化されることが知られている。ヒト癌においてはG1サイクリン-CDKのキナーゼ活性亢進を引き起こす一連の遺伝子異常が高率に認められ、pRBの機能的不活化が細胞癌化に必須の条件となることが推察される。一方、対立するRB遺伝子の1コピーを遺伝的に欠損する個体では網膜芽細胞腫や骨肉腫といった特殊な悪性腫瘍を除く癌発生の上昇は認めれず、細胞の癌化をpRBの不活化のみで一般化することはできない。我々はこれまでの研究から、各々のpRBファミリー分子に対する細胞側の増殖抑制感受性は細胞種・細胞系列間で大きく異なり、例えば造血系細胞の増殖はpRBに対し不応答性を示す一方p130 により特異的に抑制されることを明らかにしてきた。最近我々は、p130ならびにp107の細胞増殖抑制活性がpRBと同様にサイクリンD-CDK4/6ならびにサイクリンE-CDK2依存性のリン酸化により不活化されることを明らかにした。さらに、p107はS期細胞周期進行を抑制する能力を有することを見い出した。これら一連の結果は、p16INK4Aあるいはp21CIP1に代表されるCDK阻害分子の失活がRB遺伝子の異常とは質的に全く異なるインパクトを細胞周期制御に与えることを示すとともに、細胞種・細胞系列を超えた発癌の普遍的な分子基盤としてpRBファミリー分子の包括的な不活化が要求されることを強く示唆している。