両生類の初期発生における器官形成と遺伝子の発現の制御
(In vitro Control of organogenesis and gene expression in early amphibian
development)

東京大学大学院総合文化研究科生命系(Department of Life Sciences (Biology),
Graduate School of Arts and Sciences, The University of Tokyo)
浅島 誠(Makoto Asashima)

私達ヒトを含めて動物の体は様々な器官から構成されている。それらの器官が発生過
程でどのような遺伝子のカスケードのもとに形成されてくるのか。またそれらの器官
の集合体としての個体はどのようなメカニズムで統一された形づくりをするのか。こ
のような問題をツメガエルやイモリ卵を使って試験管で証明してきた。そして、試験
管で行った器官形成や形づくりが正常胚の発生プログラムとどこまで同じであるかに
ついても検証した結果、それらはほとんど同じであることがわかってきた。
両生類の胞胚のアニマルキャップ(未分化細胞塊)にアクチビンを処理すると濃度依
存的に様々な器官や組織を分化誘導する。低濃度(0.3〜0.5ng/ml)では腹側の血球
や体腔内上皮、中濃度(3〜10ng/ml)では筋肉、高濃度(50ng/ml)では脊索を分化
誘導する。更に高濃度にすると拍動する心臓や小腸、肝臓といった内胚葉性器官も分
化誘導する。このような時、試験管内でつくられた心臓は単に拍動するという生理的
機能のみならず、電顕で見ると介在板もはっきりと見られるし、心筋に特異的遺伝子
の発現も確認された。また試験管内でのアクチビン(10ng/ml)とレチノイン酸(100
nM)との混合により、原腎管(腎臓)を100%分化誘導することができる。その時、
試験管内では正常発生と同じように腎管に次々と規則正しくXPax8つづいてXCIRP、
XWTI、Xsal3、XSMP-30などの遺伝子が発現してくる。またこの系をつかって新規の腎
形成に関与する遺伝子もクローニングされ、解析されている。次に試験管内でつくっ
た原腎管を腎臓予定域を除去した胚に移植した。コントロールとしてはアニマルキャ
ップを移植し、実験胚ではアニマルキャップにアクチビンとレチノイン酸処理片を移
植した。その結果、コントロール胚では10日以内に水腫をおこして全滅するが、処
理した移植胚では1ヶ月以上生存が可能となった。試験館内で未分化細胞から腎管を
つくって生体に移植してそれが機能することも明らかになった。また形づくりについ
ては頭部構造や胴尾部構造も試験管内で行うことが可能となっている。そこで、それ
らの神経形成や胴尾部形成に関与している遺伝子とそこに働く他の因子との相互関係
などもしだいに明らかになってきている。このようにしてみると、現在、動物の初期
発生において様々な器官形成がin vitro系で可能になっており、しかもそこに係わる
遺伝子群が次第に明らかにされてきている。また目や耳といった感覚器官の形成もin
vitroで可能になってきている。それでは現状ではどこまで試験管内で臓器形成が可
能であるのか、そして、又、それらを通して将来的にどこまで可能かについても探っ
てみたい。そして、更にこれらの分化誘導された器官のin vivo系への移植という新
しい発生工学への道も可能となっているので、現状と将来への展望についても述べて
みたい。