「加齢および発癌過程におけるDNAメチル化の解析」
札幌医科大学医学部 豊田 実
DNAのメチル化は、癌抑制遺伝子の不活化の新たな機構として注目を集めている。しかし、メチル化の異常がどのようなプロセスで起きているのかに関しては未知の点が多い。我々はこれまで、癌化におけるメチル化は腺腫など前癌病変の段階で存在し、またVERSICANなど一部の遺伝子において、加齢によるメチル化が癌化における変化に先行して起こることを報告してきた。本研究では、大腸癌において異常メチル化を認める遺伝子、p16INK4A、hMLH1、CACNA1G、COX2における、正常組織での加齢によるメチル化について検討した。メチル化の検出にはBisulfite-PCR法、Bisulfite-sequencing法を用い、プロモーターおよびエクソン1を含む領域について定量的に解析を行った。その結果、(1)これらの遺伝子の転写開始点周囲のメチレーションは癌特異的であること、(2)エクソン1の下流などCpG
island周辺のメチル化は加齢により増加していること、(3)加齢によりメチル化される領域の近傍には、年齢に関わりなくメチル化しているホットスポットが存在することを明らかとなった。一方、癌においてメチル化の異常を認めない遺伝子、MSH2、MSH6、KAI1、p27に関してはCpG
islandの全領域にわたり加齢によるメチレーションの変化を認めなかった。これらの結果より、加齢におけるプロモーター周辺のメチル化は遺伝子のメチル化の異常に対する感受性を規定する重要な因子の一つで有ることが示唆された。また、癌におけるメチル化の異常は、加齢によるメチル化とCpG
island methylatorphenotype(CIMP)を介するメチル化の2ステップより起こることが示唆された。