「アダプター蛋白質Grb2の柔軟な構造と機能」
北海道大学大学院薬学研究科 湯沢聡
Grb2は細胞膜に存在するさまざまな成長因子受容体とRas/MAPKカスケードとの間を仲介する蛋白質であり、進化的にも保存されている。Grb2は酵素活性を持たないアダ
プター蛋白質であり、SH2ドメインが二つのSH3ドメインに挟まれたドメイン構造を持つ。我々は核磁気共鳴法(NMR)によりGrb2全長と単独ドメイン間の化学シフトの差異より各アミノ酸残基の化学的な環境の違いを、Grb2全長の{1H}-15Nの緩和解析から溶液中での動的挙動を明らかにした。さらに、X線小角散乱(SAXS)の解析より溶液中での三つのドメインの相対配置について検討した。これらの解析よりGrb2のSH3ドメインはSH2ドメインと柔軟なリンカー領域を介してつながれ、それぞれのドメインの相対位置や配向を変えることのできる柔軟な構造を持つことを明らかにした。特に、SH2ドメインとC末端側SH3ドメインを繋ぐリンカー領域は柔軟な構造を持っていた。このような柔軟な構造を持つことで、二つのSH3ドメインが様々な相対配置を取り標的蛋白質に複数個含まれるプロリンに富む結合配列に二価で効率よく結合することが可能となると考えられる。そこで、Grb2のそれぞれのSH3ドメインに結合するプロリンに富む領域をさまざまな長さのリンカーでつなげたペプチドとGrb2との親和性をしらべた。このペプチドは結合配列を一つ含む場合に比べ高い親和性を示した。すなわち、Grb2は二つのSH3の相対配置を変化させることにより、様々な長さのリンカーを持つペプチドに適合し二価で結合することできることが明らかになった。