「P-型ATPaseにおける反応中間体と特異的リガンドの結合の化学量論から見た4量体構造」

北海道大学 理学研究科 化学専攻   嘉屋俊二


 ナトリウムポンプ(Na/K-ATPase)のATP加水分解とイオン輸送の機構は長年にわたり詳細に研究されてきた。ATPの加水分解は、本酵素に特徴的な反応中に生成するリン酸化酵素の性質の速度論的研究から、ポンプの触媒鎖であるα鎖と糖鎖を含むβ鎖を基本単位とするαβ-プロトマーによりNa+イオンに依存したリン酸化酵素中間体 (EP)の形成と引き続き起きるK+イオンに依存したEPの分解が起こるというPost-Albers機構により説明されてきた。しかし、2種類の親和性の異なるATP結合部位が同時に存在するという種々のATPアナログを用いた反応機構の研究、リン酸化中間体形成時に触媒サブユニット同士(α-α)の2量体形成が起きるという報告などから、Na/K-ATPaseが機能的にも物理的にも2量体以上のプロトマー単位で働くことが示唆されてきた。演者らはNa/K-ATPaseのイオン輸送における機能単位を、1)リン酸化酵素中間体の生成量と特異的リガンドの結合の化学量論 2)ATP結合部位に対して特異的な化学修飾を行った酵素標品の性質 3)ATPase反応中のリガンドの結合測定とその速度論的解析 4)蛍光プローブにて標識した酵素標品を用いた酵素の構造変化 5)ロータリーシャドウ法による可溶化Na/K-ATPaseの観察の実験から検討した。その結果、Na/K-ATPaseはATP加水分解中に50%のプロトマー単位がリン酸化中間体を形成し、残りの50%はATP(またはADP/Pi)を結合しているという4量体構造をとっていることが示唆された。さらにNa/K-ATPaseと相同性の高いプロトンポンプ(H/K-ATPase)において得られた知見とあわせてP-型ATPaseの反応機構について考察する。