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第42回日米医学ウイルス性疾患専門部会の報告


中込 治(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科感染免疫学講座)


 第42回日米医学ウイルス性疾患専門部会は, 6月27日と28日の2日間にわたり長崎大学医学部内に創立150周年を記念して建築された良順会館で開催された。ウイルス性胃腸炎のセッションは例年通りスタンフォード大学Harry Greenbergと長崎大学の中込治が座長を務め、米国側2題,日本側5題,合計7題の発表があり、活発な質疑応答も行われた。内容的にはロタウイルスに関する演題が6題(日本4、米国2),ノロウイルスに関する演題は日本からの1題のみであった。

米国側の発表
 Greenbergは"ロタウイルス, ヒトB細胞、形質細胞様樹状細胞との複雑な関係"という演題で,ヒト成人の腸管と末梢血からB細胞を精製し、これにロタウイルスを感染させる実験を行った。この結果、ロタウイルス(ヒトロタウイルスもRRVも)がB細胞にproductive infectionを起こすこと、ロタウイルスに対する感受性は記憶B細胞がナイーブなB細胞より高いこと、ロタウイルスの感染により循環血中のB細胞が死滅すること、(以前のBluttらのマウスでの報告とは異なり)ロタウイルスは間接的な方法(おそらく形質細胞様樹状細胞)によってB細胞を活性化すること、B細胞がロタウイルス抗原をCD8陽性T細胞に提示することなどを報告した。そこで、彼の話は形質細胞様樹状細胞にロタウイルスを感染させる話に進むが、そもそも感染する細胞は少なく、樹状細胞にはproductive infectionを起こさず、感染細胞の死も誘導しないこと、しかし、樹状細胞内でウイルスは増殖しないもののロタウイルス感染により形質細胞様樹状細胞が成熟することを報告した。さらにロタウイルス感染により形質細胞様樹状細からIFN-alphaが産生されるが、これはdsRNAではなく構造タンパク質(VP4やVP7か?)により誘導されると報告した。

 最近HarvardからNovartisに転職したPhilip Dormitzerは"ロタウイルスVP7の結晶構造: new insights into cell" という演題で, VP7およびVP4の原子構造と生物活性とを解明する構造生物学的な口演を行った。私が関心をもった(理解できた)点をいくつか上げると、ロタウイルスが脱殻する過程でVP7(粒子上では3量体がcapsomereを構成している)がはずれるが、これはカルシウムイオンを失うことにより、VP7タンパク質の陰性に荷電している側鎖間に反発が起こることに原因がある。VP7タンパク質のN末端がその下の内殻を構成するVP6とinteractすることにより粒子表面上に固定される。VP8のレセプター結合部位がVP4からなるスパイクの頭部を構成する。このVP4(3量体)にはuncleaved, cleaved, folded backの3つの存在様式があり、cleavedの状態で2つのサブニットが安定なスパイク構造をとり、残る1つがフレキシブルな状態にあり(クリオ電顕などでは)見えない状態になっている。2重層粒子(DLP)にVP4とVP7を加えると感染性のある粒子を再構築することができるが、この場合、必ずVP4を先にDLPに加えなければならない。VP4−VP4間およびVP4とDLPの間の結合は弱く、VP7が加わることによってしっかりと固定されること、などの知見であった。

日本側の発表:日本側の演者と演題は以下のとおりである。
山城哲(長崎大・熱研)Predominance of Viral Pathogens as the Etiology of Acute Gastroenteritis among Children less than 5 Years of Age in Northern Vietnam
Paul Shyamal K(札幌医大・衛生学)Phylogenetic analysis of predominant G2, emerging G9 and G12 rotaviruses from children and adults in Bangladesh
葛谷光隆(岡山県環境保健センター)Molecular epidemiology of group C rotavirus in Japan over the last two decades
浅野正岳(日大・歯・病理学)Prevention of human rotavirus infection by human beta defensin-2
片山和彦(感染研・ウイルス2部)A Reverse Genetics System for Human Norovirus that Produces Infectious RNA
河本聡(藤田保健衛生大・ウイルス寄生虫学)Generation of recombinant rotavirus having an antigenic mosaic of cross-reactive neutralization epitopes on VP4


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