性同一性障害診療について

性同一性障害の定義

 性同一性障害 (Gender Identity Disorder: GID)は、「身体的性別とジェンダー・アイデンティティー (性の自己意識や自己認知)が一致しないこと」と定義されます。身体的性別は男性ですが内的には女性と確信している人をMTF (Male to Female)、身体的性別は女性ですが内的には男性と確信している人をFTM (Female to Male)と呼称します。

札幌医科大学における取組み

 札幌医科大学では、倫理委員会の審査・承認の後、2003年12月1日に精神神経科、泌尿器科、婦人科、第一外科、形成外科から構成される「GIDクリニック」を立ち上げました。以後性同一性障害の包括的な診断・治療を行なっていますが、受診者は年々増加傾向にあり、現時点では全道各地より約500名が受診しています。

性同一性障害の診断

 性同一性障害の診断には、その診断・治療に精通した精神科医2名の一致した意見が必要です。泌尿器科あるいは婦人科で行なう身体的所見と統合して、GIDクリニック会議にて診断を確定しています。

性同一性障害の治療 (図1)

 性同一性障害に対する治療は、精神科領域の治療 (精神的サポート)と身体的治療に大別されます(図1)。精神的サポートは生涯にわたって必要なため、精神科が中心となって治療が進められます。歴史的には心の性別を身体的性別に適合させる精神科的な試みが行なわれてきましたがいずれも失敗に終わっています。このため、身体的性別を望む性に近づける目的で、ホルモン療法 (MTFに対しては女性ホルモン投与、FTMに対しては男性ホルモン投与)、乳房摘除術 (FTMに対して)、性別適合手術 (Sex Reassignment Surgery: SRS)などの身体的治療が施行されます。
 身体的治療を行なうか行なわないか、また、どのような身体的治療を行なうかは、性同一性障害当事者の自己責任のもとに自己決定することができます。しかし、不可逆的な身体的治療の施行には、GIDクリニック会議における慎重な討論を経て、GID委員会による審査・承認が必要となります。なお、身体的治療に係わる医療費はすべて自費となります。

(図1):性同一性障害に対する治療のパターン(図1):性同一性障害に対する治療のパターン

性別適合手術 (Sex Reasignment Surgery: SRS)

 MTFに対するSRSは、精巣摘出術、陰茎切断術、造膣術および外陰部形成術からなります (図2)。通常は陰茎と陰嚢の皮膚を翻転させて造膣を行いますが、深い膣を希望される方にはS状結腸を使用した造膣術も行っています。
 FTMに対する性別適合手術は、子宮・卵巣の摘除と外性器の改変に大別されます。陰茎作成術、尿道延長術および膣狭小化術により外性器を改変します (図3)。陰茎作成術は、ホルモン療法により肥大した陰核を用いた陰核陰茎作成術と、遊離皮弁あるいは有茎皮弁を用いた陰茎作成術に大別され、目的に応じて術式が選択されます。
 当科ではこれまでに約50例の症例に対して性別適合手術を施行しています。性別適合手術施行後に、ある条件を満たせば戸籍上の性別の変更が可能になります。

(図2):MtFの手術
(図2):性同一性障害に対する治療のパターン

(図3):陰核陰茎形成術
(図3):性同一性障害に対する治療のパターン

性別違和を有する方へ

 性同一性障害の治療の目的は、当事者の生活の質(QOL)の改善にあります。性別違和感でお悩みの方がいましたら、当院GIDクリニックへの受診をお願いいたします。なお、新患受付の窓口は精神科外来となっています。泌尿器科外来あるいは婦人科外来を直接受診されても診療できませんのでご注意願います。

受診の方法はこちら → http://web.sapmed.ac.jp/hospital/guide/mumhv60000002vz7.html

本邦と札幌医科大学における性同一性障害診療の歴史

1996年7月2日 埼玉医科大学倫理委員会「性転換治療の臨床的研究」に関する審議経過と答申。
1997年5月28日 日本精神神経学会 性同一性障害に関する特別委員会による答申と提言 (ガイドライン)。
1998年10月16日 埼玉医科大学で国内初の公式性別適合手術施行。
1999年3月21日 第1回GID研究会 (現 GID学会)開催 (会長 埼玉医科大学総合医療センター形成外科 原科孝雄先生)
2000年3月 岡山大学倫理委員会でジェンダークリニック開設が承認。
2001年1月 岡山大学で性別適合手術施行。
2002年7月20日 日本精神神経学会 性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン (第2版)。
2002年11月8日 GID/FTMTSが札幌医科大学泌尿器科外来受診。
2003年2月3日 「札幌医科大学性同一性障害判定治療委員会の設立、性同一性障害の診断と治療」を札幌医科大学倫理委員会に提出。
2003年3月25日 第1回倫理委員会開催、継続審査と判定される。
2003年4月11日 Urological Seminar「性同一性障害の診断と治療-岡山大学での取り組み」(岡山大学泌尿器科 永井 敦先生)開催。
2003年4月21日 「性同一性障害」に関する講演会「性同一性障害の診断と治療はどう行われるか」(埼玉医科大学精神神経科主任教授 山内 俊雄先生)開催。
2003年5月13日 第2回倫理委員会開催、継続審査と判定される。
2003年7月28日 第3回倫理委員会開催、札幌医科大学医学部附属病院における性同一性障害治療ガイドラインの骨子がまとまる。
2003年8月5日 性同一性障害者支援組織【Club Sunrise】、gid.jp北海道支部より、「性同一性障害者の医療に関しての要望について」との件名で、要望書の提出あり。
2003年8月25日 第1回GID meeting開催。
2003年8月26日 第4回倫理委員会開催。名称をGIDクリニックとすることで合意。専門部会、診断・治療班のメンバー選出。患者団体との合同記者会見。
2003年9月4日 「札幌医科大学性同一性障害判定治療委員会の設立、性同一性障害の診断と治療」が札幌医科大学倫理委員会によって承認。
2003年9月16日 院内における対応に関する第1回打ち合わせ開催 (医学部長、精神科、泌尿器科、婦人科、事務、看護師長、ボランテイアコーディネーター参加。
2003年12月1日 札幌医科大学「GIDクリニック」が正式にスタート。
2004年8月20日 札幌医科大学GID委員会により10名に対し、ホルモン療法への移行の承認。
2004年12月21日 FtM症例に対して第1例目の乳房摘除術施行。
2006年1月21日 日本精神神経学会 性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン (第3版)。
2006年5月30日 札幌医科大学倫理委員会により、2例のMtF症例に対する性別適合手術の施行が承認。
2006年6月28日 札幌医科大学においてMtFに対する性別適合手術を初めて施行。
2006年11月22日 札幌医科大学においてFtMに対する性別適合手術を初めて施行。
2011年11月18日 日本精神神経学会 性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン (第4版)。