痙縮(手足のつっぱりなど)に対する治療

痙縮(けいしゅく、痙性ということもあります)とはなんですか?
脳卒中や脳性麻痺など脳の病気や、脊髄損傷やALS(筋委縮性側索硬化症)のような脊髄や神経の病気などで、筋肉が緊張しすぎて、手足が動かしにくい、首や背中が反ってしまう、勝手に動いてしまう状態のことです。
痙縮では、手指が握ったままとなり開こうとしても開きにくい、肘が曲がる、足先が足の裏側のほうに曲がってしまうなどの症状がみられます。


痙縮の具体的な症状はどういったものですか?
上肢(手):わきの下がつっぱり、手があがりにくく、着替えが大変
      肘がまがり、のびない。手首が内側に曲がったり、指がひらきにくい




下肢(足):太ももの裏が張って、膝がのびにくい。
      うちもも(内転筋)がつっぱり、おむつ替えがしにくい
      ふくらはぎ(下腿三頭筋)がつっぱり、歩きにくい




体幹(首や胴体):首がまがったまま戻りにくい(痙性斜頸)
      腰が反って、うまく座れない

上記の症状は、個人個人で千差万別ですが、一般的に緊張することや、寒い季節などに悪化することも特徴です。また、手足の動かしにくさは、筋肉の緊張だけではなく、骨や関節、靭帯、関節包(関節を包む袋のようなもの)、皮膚など色々な原因が混ざっていることも多いです。 痛みや皮膚の傷の原因になったり、清潔を保ったり介護することが難しかったり、リハビリテーションの妨げになることもあります。

治療にはどんな方法がありますか?

1.運動療法:ストレッチが大事です。下のどの治療にもリハビリテーションを併用することで効果をさらにあげることができます。
2.装具療:装具には様々な目的がありますが、痙縮をやわらげる効果をねらって作成することもあります。下記のブロック療法と組み合わせることもあります。
3.薬物療法:痙縮をやわらげるために様々な薬があります。効き目や副作用は、人によって違います。
4.ブロック療法:ボツリヌス療法、フェノールブロック療法などがあります。
5.電気刺激療法・物理療法:低周波治療や温熱療法があります。
6.手術療法:必要があれば整形外科の先生と相談します。

ボツリヌス療法について

飲み薬と違い、筋肉のつっぱりを取りたい場所だけに注射するので、ねらった効果がでやすい治療です。 ボツリヌス療法とはボツリヌス菌が作り出す天然のたんぱく質(ボツリヌトキシン)を有効成分とする薬を筋肉に注射する治療法です。 ボツリヌストキシンには、筋肉を緊張させている神経の働きを抑える作用があります。 そのためボツリヌストキシンを注射すると、筋肉の緊張をやわらげることができるのです。 ボツリヌス菌そのものを注射するわけではないので、ボツリヌス菌に感染する危険性はありません。

ボツリヌス療法の実際の流れ

リハビリテーション外来を受診していただき、ボツリヌス療法の適応があるかどうか医師の診察を受けて頂きます。治療を受けることが決まった場合、注射をうける日程を予約していただきます。 注射は、1か所に0.1mlから0.5ml程度の筋肉注射です。針も採血などの注射よりも細い針を使います。何か所くらい注射するかは、人によって違いますが、患者さんの症状とよく相談して決めていきます。 注射後は、3−4日で効果が現れ、実感の程度は個人差がありますが、2か月程度効果は続きます。その間に、リハビリテーションをやって頂くことで、より効果は長続きしやすくなり、注射の効果が切れた後にも、身体の変化を残すことができます。 病気が原因の痙縮であれば、保険診療で行えます。

ボツリヌス療法の効果について

ボツリヌス療法によって次のような効果が期待できます
  • 手足の筋肉が柔らかくなり、動かしやすくなることで日常生活動作が行いやすくなることが期待できます
  • 関節が動きにくくなったり変形するのを防ぐことが期待できます
  • 手足の筋肉のつっぱり(痙縮)をやわらげることにより、痙縮による痛みを緩和する効果が期待できます
  • リハビリや介護がしやすくなることが期待できます


  • 繰り返しになりますが、ボツリヌス療法を行った後、リハビリテーションを組み合わせて継続して行うことで効果が期待されます

    下記は、実際当科で治療を受けられた患者さんから頂いた感想(原文まま)です。ご参考にしてください。

    70代男性 Aさん 

      ボツリヌス治療を受けて    〜 劇的な変化が現れる 〜
    脳出血で右半身に後遺症が残り、理学療法のリハビリを受けて3年目でした。上肢は、主に肘や手首に強張りが現れ、片麻痺特有のゆがんだ姿を強いられる生活でした。リハビリは、この状態をとりほぐすことを中心に受けていました。下肢は、上肢より回復程度が良かったのですが、小指側から内反傾向が出ていたので、歩行は常に神経を遣い外では杖を使っていました。治療は、先ず上肢から受けました。結果を、当時の記録の通りに書きます。1日目「指5本伸びる、左手添えて」2日目「こぶしグーだったのがパーできる」3日目「ひじ伸びる、ほぼ180度まで」4日目「指組める、十字架にして同じ高さ」5日目「ひじかけ椅子に深く掛けられる」6日目「マッサージ機に右ひじが乗る」7日目「指が伸展したので試しに自分の左手で右手指爪切る・切れた・感激!」8日目〜14日目「治療1週間のような劇的変化なし」と記録されており、1週間以内に劇的な変化が現れていたのです。この様に上肢の筋肉が緩み、肘や手首の強張り、握りこぶし状態が緩和され、ぎこちなかった動作も徐々に直り一つの壁を乗り越えたと実感しました。
    これまで6回の治療を受けていますが、間隔は最短4ヵ月、最長10ヵ月半です。           

    50代男性 Bさん

    平成24年の夏に初めてボドックス注射の治療を受け、それ以降半年に1回程度の頻度でこれまで8回の治療を受けている。その感想を簡単にまとめてみた。
    @私は歩行障害の緩和のため両足の主に3部位(太ももの後ろ(歩幅が広がる)、内もも(左右に足が開くようになる)、ふくらはぎ(つま先歩行の改善))に施術しその効果は十分に実感できている。さらに身体全体が軽くなり歩行を含め動作も速くなっている感覚がある。しかし5ケ月を過ぎた頃から再び歩き難さを感じるようになり6ケ月目での再施術となっている。
    A副作用はなく日常生活に何ら支障は出ていない。ただ施術直後から上記3部位の急激な変化に伴う歩行時の違和感および “動きたくない”という脱力感なども多少感じるが1~2週間後には改善し、それ以降約5ケ月間はその緩和された良好な状態が維持される。
    B治療自体は注射であるが、”チクッ”という痛みすら感じない程度で治療に対するストレスは皆無と言える。
    C最後に、私は公的な医療費補助により繰り返して治療を受けられてはいるが、それでも効果の持続期間が少しでも長らえるよう両下肢に重点をおいたストレッチなどは日課となっている。

    ボツリヌス療法のお申込み・ご質問について

    当院に初めて受診される場合は、事前にお電話でご相談ください。
    お問い合わせ先:リハビリテーション科外来 TEL 011-611-2111(代)

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