冬のオホーツク海



オホーツクブロック理事    毛利 俊朗   


 突然の原稿依頼の電話に戸惑いながらも今回は,私たちのブロック名にもなっている手近なオホーツク海の冬について書かせて頂きたいと思います。

 このブロックに住んでいる人々は約30万人で,日本の総人口の0.3%にも満たないわずかな数ですが,とても貴重な自然の財産を共有しています。それは世界で最も南に位置する“凍る海"です。オホーツク海は大陸と多くの島々に囲まれた“閉じた海"となっているのが特徴です。そこに石狩川の17倍の長さをもつアムール川の膨大な量の真水が注ぎ込み,海水上層部の塩分濃度が下がり,突き刺すようなシベリアの寒気とあいまって流氷が生まれます。それは風に吹かれ,海流に乗って南へ南へと下りしだいに成長しながら,やがて流氷帯となってオホーツク海沿岸に押し寄せます。

 1月下旬から3月上旬までのオホーツク沿岸はとても静かです。打ち寄せる波の音や空を飛ぶカモメの鳴き声,海原を進む漁船の警笛などは一切聴こえません。というのも,我々がイメージする海なるものはそこにはないからです。日本の国土は狭く地平線など見たことがないという方は,この時期,この場所を訪れてみて下さい。果てしなく続く純白の大氷原が眼下に飛び込み,極地を思わせるその光景はまるで巨大な大陸が出現したかのようです。実際シベリア大陸と陸続きになりオジロワシやオオワシ,シカ,ゴマフアザラシなどの鳥や獣が流氷に乗ってやってくることもあります。陸路ロシアに渡ることも可能ですが,流氷の上を普通の氷のつもりで歩くと海中に落ちてしまう危険があります。池の氷は5cmの厚さもあれば上を歩くことができますが,流氷は8cmの厚さが必要です。流氷の中にはたくさんの『塩の穴』が空いているため,普通の氷よりも割れやすいのです。ロシア側が密入国は困ると,オホーツク海の約8割を埋め尽くす流氷を,石油を燃やして溶かそうとすれば,日本で使われる実に25年分に相当する63億tもの原油が必要といわれています。

 そんな大自然のもとに誕生した流氷も,春の訪れとともにやがて消え行く運命をたどります。温かい南風が吹くとそれは大氷原を引き裂き,オホーツクの深く青い海面がところどころ顔をのぞかせ,氷山のミニチュアを思わせる氷塊が沖へと流れ出し,オホーツク海は大陸から海洋へとその姿を変えます。

 神秘に満ちたオホーツクの“海の結晶"冬将軍の使者として極北からはるばるやって来る流氷を見て下さい。その壮大さに驚かされ,その静けさに心を洗われ,その儚さに哀愁を感じることと思います。

 流氷は見たいけど寒さは苦手というあなたのために。4月から5月のよく晴れた日,水平線に突然巨大な流氷群が姿を見せることがあります。『幻氷』と呼ばれる気楼で流氷を見ることができる最後のチャンスです。

 真夏に流氷を見たいという贅沢なあなたのために。網走・紋別には流氷館が存在し,その年に来た流氷をマイナス20度前後で保存して,一年中休みなく観光客の目を楽しませています。

  参考文献 『オホーツクの白い詩』  網走観光振興公社発行  



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(社)日本放射線技術学会 北海道部会