名誉会員推戴を授かってのご挨拶


医療法人緑光会野宮病院 放射線科 富樫 健


 平成8年4月21日第52回総会の席上,思いもよら ぬ名誉会員の推戴に与かり,光栄の極みと存じており ます。

 昭和46年第43回総会における(故)古谷銭雄先生 を名誉会員の靖矢としますが,古谷先生は蓄放式X線 装置の放電制御に関する大家として令名を馳せ,更に 本会副会長として会務に疎腕を振るわれた方でありま す。そのような大先達と列をーにすることは,身の疎 む思いと共に無上の喜びを禁じ得ません。今後とも会 員皆様の力添えを得ながら,少しでも会のお役に立つ 姿勢で努力したいと考えておりますので,よろしくお 願い致します。

 さて私どもの業とする医用画像及び治療領域は,半 年を待たず急速な発展を遂げていることに異論は無い と思います。だがこの裏には基礎研究として設計製造 に携わる科学者,技術者と応用研究に係わる科学者, 技術者との関係が旨く連携し,絡み合って,一つの製 品が造られ,産業としての形成と医学・医療の応用に 貢献されているのだと思います。勿論製品は国内外入 り乱れて開発に縞を削っております。どちらの製品が 優位とかはー概に断言できません。ただ従来からいろ いろと言われていることですが,どうも日本人は基礎 研究に弱い,その点欧米諸国は何もないところから学 問を建設したり,新しいモノを作りだすことには伝統 的に勝れているという説があります。又日本人の業績 にはセレンディピティなものが少ないとも言われてい ます。セレンディピティとは「ガラクタの中から拾い だしてきたような成果」とでもいうのだそうですが, そういう姿勢がまったくないということだそうです。 これはクリエーション,つまり創造性に欠けているか らなのではないか。そのネッコには日本が明治の時代 に大学制度を導入した際,設置趣意書に「欧米より文 物を移入し,もってわが国の文化水準を向上せしむに あり」とあり,クリエーションより,先ずモノ真似を せよと勧めており,ここに日本の大学が本来の機能を 果してないー因がある。(アンダーラインは西沢潤一元 東北大総長『「技術大国・日本一の未来』より部分引用) と解説しております。

 何と耳の痛いことか,この問題は我々の関係にも一 部通じるところが有るのではないでしょうか,反省を 込めて問題視すべき点だと感じています。この論調か ら思い浮かべることがありました。それは第52回道都 会の春季シンポジウムにおいて,放射線機器・薬剤技 術発表会「高速螺旋CT装置についてーと国内外各社 が自社製品について,それぞれ性能の優位性について 熱弁をふるいました。そのなかである外資系のー社が 「三次元処理・データ収集などのソフト関係は少々遅れ ている印象は免れないが,基礎としてのハードウエア について他社の追従は許されない,ソフトは直ぐ追い つき,越すことは可能である。機器総体を差配し基本 となるハードウエアは開発の最重点とすべきであり, この点他社の製品に対し絶対の自信を持つ,一と発言さ れていたのがー際耳目の刺激を得たのであります。こ のような率直な姿勢を討論の場で,とうとうと述べら れたことに,やはり基礎技術の国だなと,一種の畏怖 と羨望を感じ取りました。

 そしてもうひとつ,最近の日本放射線技術学会雑誌 (Vol.52 No.4 APRIL Iq96)の論文「胸部CTにお ける吸入空気量がCT画像におよぼす影響について」 奈良県立医大・土井氏他による原著であります。 大略は胸部疾患のCTスキャンを仰臥位で施行した際に, 肺野の背側が腹側に比べて高吸収域に描出される場合 をよく経験するが,それが間質性肺炎などによる肺動 静脈皿流のうったいや,肺内水分の動効果によるもの, 吸収空気量による生理的現象によるものか,確定診断 を行うことができなかった。そこで原因を追求する実 験を行ったのがこの論文の主旨です。確かにこの現象 (もう少し分かりやすく言うと両背側胸膜に接して網 状様の陰影増強)は度々みられる事で実は私も疑問を 感じておりました,疑問を感じていただけで,その事 を解明する手だてを講ずるまでに至らなかった。この 至らなかった,が前述のセレンディピティ,或いはク リエーションの不足だったのです。この実験の結果は 吸入空気量が少ないため肺胞隔壁が高吸収城として描 出することが考えられる。と至極明快な結論を出して おられます。

 何だそんな簡単な事かと感じるかも知れませんが, 基礎的なものの考え方,実験に至る迄の道程,実験器 具の試作等いろいろ大変だったなと思わざるをえませ ん。僅かー行の結論を得るための「なぜ?」という知 的好奇心に動かされて,試行錯誤の世界に入り込むそ の前提には,やはりクリエーション,セレンディピティ の感覚が重要なのだと考えさせられる論文でした。

 北海道の技術学会はヲE常に優れた感覚を持つ技術者 の集団と思います,どしどし勉強して良い論文を多数 発表し,是非放射線技術学を北海道のフロントラン ナーとして進めていただきたいと思っております。幸 い現会長並びに幹事諸氏の学会部会執行部は,中央に 引けをとらない指導者階層としての地位を確立してお ります,会員の皆様方におかれましても更に深いご理 解と,ご協力,ご声援を賜り,この会をー階もり立て ていかれんことを願っております。最後に,分不相応 と思える名誉会員の推戴に与かり,日頃の思いを述べ させていただき,ご挨拶と致します。



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