第12回春季シンポジウム抄録
「高速甥旋CTの現状と将来」

座長 宮下 宗治(耳鼻咽喉科麻生病院)
   平野  透(札幌医科大学附属病院)

 1989年に試験的に臨床使用が開始された高速螺旋CTは,本道においても1991年に1号機が導入されて以来急速に普及が進み,現在CT装置の主流となりつつある。連続回転型CTに寝台移動を加えたデータ収集方法は,従来のCT装置に比し高速性・データ連続性に優れ,造影検査を含め多くの部位に対してその優位性を発揮して来た。

 また,三次元処理に代表される様々な画像処理の開発・応用により,これまでにない臨床上有用な情報も提供可能となった。

 当初指摘された線量不足・スライス厚増加・計算時間等の幾つかの問題点も,その後の技術的進歩により解決せしめた。もはや高速螺旋CTの存在価値を否定する事は困難な時代を迎えたと考える。

 しかしながら当技術はその完成度という点から見ると,幾つかの課題が指摘される。

従来の装置には無かった補間再構成処理を経て得られる画像には,今なお未解決の問題点が残存する。さらに,画像処理を含めた性能評価基準が定まっていないのも大きな課題といえる。いずれにしろ,その特性の理解度が検査の成否に大きく影響する技術である事は疑問の余地はなく,取りも直さずそれらは放射線技師に依存している部分である。

 本シンポジウムはこの時期をひとつの節目と捕らえ,各シンポジストにそれぞれの視点からの提言を仰ぎ,参会者と共に活発な討論を加えて行きたいと思います。


I.ヘリカルCTの性能評価 -補間再構成を中心に-

小樽液済会病院  平野 雄士

 ヘリカルスキャンは,連続回転スキャンを行いながら,寝台が等速に移動することによって,投影データを螺旋状に収集する方法である。

 投影データが螺旋状に存在するため,ある断面に対してー致するデータはー点しか存在しない。補間のデータは,異なる位置のデータとなり,従来の方法で再構成をするとデータ開始位置とデータ終了位置の違いによるモーションアーチファクトが発生する。この現象を解消するために,補間再構成法が考え出された。

 現在用いられている補間法としては,前後二回転のデータより補間をする360度補間法と対向ビームを利用する180度対向ビーム補間法がある。

 360度補間法は,一断面を得るために720度(管球2回転分)のデータを必要とするためスライスプロフィールの裾野が広がり,実行スライス厚が厚くなるという欠点がある。

180度補間法は,対向ビームを利用し補間再構成を行うことによりー断面を得るためのデータ範囲をほぼー回転に近い領域とした。この方法によりスライスプロフィールは改善し,現在ヘリカルスキャンの主流の補間法となっている。

 今回,各々の補間法について以下の点を検討し報告する。

1.それぞれの補間法の原理・特徴
2.管球位置におけるCT値,SD値の変動
3.3次元画像におけるへリカルアーチファクトの検討

II.高速螺旋CTの性能評価 -体軸方向の分解能-

斗南病院  柿本 真一

 螺旋状CTは既知の通り管球連続回転,寝台連続移動により画像を得ようとするものであり,被写体の体軸方向に連続したボリュームデータを得ることができる。しかし,このポリュームデータはConventionaI CTの様に閉塞しておらず,画像作成にはConventionaI CTには無かった補間再構成をしなければならない。故に,その作られた画像は当然ConventionaICTでのそれとは違ったものとなる。

 現在X線CTの性能評価に関しての勧告は,日本医学放射線学会CT性能評価委員会の第2次勧告案と日本放射線技術学会CT装置性能委員会のJIS勧告案があるが,両者とも対象がConventionaI CTであり,螺旋状CTを評価するのには不十分な点がある。また,ポリュームデータを扱う螺旋状CTでは評価項目として体軸(Z軸)方向における評価も必要となってくる。

 体軸方向における評価については数多<の報告があるが,未だその評価法として確立されたものがない。

 今回,体軸方向の分解能,及びそれに大きく依存するスライス厚の特性について以下の点について検討,報告する。

1.実効スライス厚と設定スライス厚との相関,及びテーブルスピードの依存性,位置依存性
2.体軸方向の分解能の測定結果とその問題点

III.頭頚部3D-CT Anglography

医療法人札幌麻生脳神経外科病院  小寺 秀一

 高速螺旋状CT装置,いわゆるへリカルCTスキャナーが登場して以来,CTの臨床応用範囲は飛躍的に広がり,それまでMRに圧倒され,陳腐化しつつあったCTが再び注目を集める事になった。

 頭頚部領域の臨床においては,ヘリカルCTの大きな特徴のーつである,3次元データの取得を生かした3 DICT・Angiography(3D.CTA)が日常的に行われるようになった。3D.CTAが現時点で他のモダリブィーによる血管画像に比べ最も優れている点は,3次元表示により複雑な皿管走行や病変形態を容易に把握できる点に有る。特に,頭頚部は微細で複雑な血管構築を対象とする為,3次元画像によってあらゆる方向から観察する事により,従来では得られなかった多くの情報を得ることが出来る。

 かつてのCTによる3次元表示は,データを体軸方向に細かく密にする事が困難であった為に,大まかな形状と位置関係を把握するにとどまる程度の画質であった。しかし,ヘリカルスキャンを用いる事により,体軸方向の分解能とデータの連続性を飛躍的に改善する事が出来,また,大幅な時間分解能の改善により高い造影効果が得られ,高精細な3次元血管画像を得る事が可能になった。今日の3D.CTAの画質は,もはや,シュミレーションや存在診新にとどまらず,精密診断をも可能にする城に達しつつ有り,その臨床的意義は高い。

 しかし,3D.CTAは原理的にSCANパラメーターや造影効果によって画質が大きく変化し,また,画像処理過程における作り手の主観や技量によっても,その画質は変化する。これは,診断画像としての3D-CTAの信頼性を左右するものであり,我々はその不安定要素を充分にふまえた上で用いなければならない。今回は,我々の施設における650例余りの臨床経験をもとに,各疾患別に症例を紹介し,現状における頭頚部3D.CTAの有用性と問題点を考えて行きたい。


IV.腹部=腹脇について

北海道大学医学部附属病院放射線部  笛木 工

 北海道内に導入されているCT装置のうち,螺旋走査型CTは全体の約20%程度,また普及率では国内第3位である。春季シンポジウムが開催されるころには30%にかなり近い数字になっている事であろう。この螺旋走査型CTに利点を最大限に活用し,より質の高い画像を提供する事を目的に,主に2次元画像を中心に腹部臓器,特に脂臓に着目をし,話を進めて行きたい。睦疾患における画像診断にはCTをはじめMRIやエコー(超音波内視鏡も含む),ERCPなどが上げられるが最も頻用される検査法はCTである。エコーやMRIでは緊急患者に対し検査自体困難な場合がある。

 睦実質自体や腕周囲への炎症の広がり,進展度診断を含めたCTの診断能は高いものと考える。現在までに数多<の研究発表がなされ既に周知のことではあるが,螺旋走査型CTの特長は短時間で検査が可能である高速性と体軸方向に連続性のあるデータ収集を行えることである。睦疾患における螺旋走査型CTの有用性はその高速性により腫楊部のコントラストが明瞭な造影早期相での撮影が可能で,呼吸位相の違いによる位置移動がなく,任意の間隔で画像が得られ,的確に描出しうる点にある。これらを十分に踏まえ,我々診療放射線技師が注意しなければならない点について述べたい。既に導入されている施設は再確認を,また導入予定の施設については予備知識となれば幸いである。


V.高速螺旋CTの発展 (Hyper Hospitalの構築へ向けて)

高橋脳神経外科病院  三上 準一

 所謂,狭い意味における医療計測写真に於いて,その技術の発明発見及発展を考えて見た時に,その始まりは今より約150年程前の写真の発見に第1歩を見ることが出来る。その後X線発見100年,コンピュータ50年,X線CT25年(MRI2年,光CT 6年等)と続き,コンドラチェフ,サイクルのバイオリズムに乗って発展応用を繰り返してきた。その間,停滞期にあっては既存科学技術の組み合わせ応用を行い新効果をもたらすことにより今日の水準を構築してきている。その中にあって高度に完成されつつあるモダリティーの1つが高速螺旋CT装置であるといえる。この高速螺旋CTの発展を考える時に今,最大の影響因子となっているもの即ち,成熟度に高次の多面性を要求するものの筆頭が医療社会ニーズであると思われる。

 ー方,その医療社会に於いて,人間を中心とした良識ある理論武装をもって完成,構築が急がれているものがHyper Hospitalである。ハイパーホスピタルはインターネット上に構築される仮想現実空間の医療施設であり,医療コミュニケーションの電子化,物理空間的制限の排除を以って,あらゆる弱者のより主体的な治療参加,社会復帰を目的としたものである。この施設の中で重要な位置を占めている要素のーつが,仮想現実計測を受け持っているモダリティーであり代表されるものが高速螺旋CT装置である。そして又装置の持っている性格上,この構築を加速するものもCTであると言うことが出来る。この意味,期待,現実に於いてCTは発展しなくてはならない宿命を背負っていると言わなければならない。



[Back to Home Page]    [Back to Contents]

(社)日本放射線技術学会 北海道部会