巻 頭 言


会長 柴田 崇行


両刃の剣


 ある辞書によればぃ両刃の剣とは使い方によっては素晴らしい力を発揮するが,同時に非常に大きな危険を招く恐れもあるたとえ″とある。

 我々が取り扱っている放射線は,まさにそのたとえ通りである。

 今年はX線発見100年という記念すべき年にあたるが,発見から現在までX線は医療の中で計り知れない恩恵という利益を人類に与え続けてきている。しかしその裏には放射線被曝というリスクを与え続けてきているのも事実である。

 医療で放射線が人体に用いられるのは,その行為によって利益の方がリスクを大きく上回るというのが大原則であることは論を持たないが,その行為の過程で我々は,いかに被曝線量を低くおさえると同時にいかにより高い画像情報を出すかということをいつも考えている訳である。

 一般撮影,CT,DSA,CR,RI等の画像は一般的にはより精度の高い画像を求めれば被曝線量は増加してしまう,被曝線量を低くおさえれば画質が低下してしまうというジレンマがある。低線量で高画質という一見理想とも言える最大目標に向かってこれからも研究,努力が必要であり,技術学会の大きな使命の一つであると思う。幸いに日本放射線技術学会では平成7年山梨での秋季学術大会開催時に放射線防護分科会が発足する予定でいま準備を進めているところである。大いに期待したいものである。

 このような両刃の剣的な性質は,今一つ視野を広げると放射線のみではなく,私達をとりまく環境,企業,経済,個人の日常生活の殆どと言って良い位利益とりスクが背中合わせになっているのである。私達はその都度色々な情報,知識等をもとに最善と思われる方向(利益を大きくしてリスクを最小限にとどめる)を選択し,行動をしているのではないかと思う。

 そのような観点から医療の中での放射線技師の業務担当という問題を考えて見たいと思う。

 我々の業務範鴫は,X線撮影のみの時代から始まって放射線治療,RIそして近年CT,DSA,MR1,CR,US等多くのモダリティーが業務に取り込まれて来た。

 これらモダリティーの違いはあっても,人体の内部情報を画像として描写する点では共通であるが,画像描出手法はそれぞれ根本的に違い,多くの深い知識と技術が要求されるようになって来ている。

 そこで問題になってくるのがローテーション(担当業務交替)である。ローテーションの利益は全てのモダリブィーを経験出来ること,全放射線技師の平等性に優れていることまた,夜間休日の緊急時に全放射線技師が対応出来る等が上げられるが,全てのモダリティーを扱えるということは,″多芸は無芸″の諺にもあるように,能力の差はあれ一般的には深みのある技師は期待出来ないという大きなリスクが潜んでいると思う。

 放射線技術の最大の目的は1枚の画像にいかに多くの生体情報をのせて自信をもって診断の場に提供出来るかにあり,このことが即患者への利益につながることなのである。

 このような観点から私はこれからの中,大病院の放射線技師は,ある程度専門化をすべきではないかという持論を以前から持っている。(勿論,その場合自分の専門以外のモダリティーを良く把握し,その画像を理解出来ることが必要なのだが)

 そして,21世紀には外に向かって自分の専門は何々ですと胸を張って言える時代が必ず来ると私は信じている。



[Back to Home Page]    [Back to Contents]

日本放射線技術学会 北海道部会